宮部 みゆき 角川書店

ついに再読終了。
2007年に読んだ小説1作品目が、いきなり今年の(個人的)ベスト3に入ることが確実な作品で、うわ〜、感想書かないとって気合を入れて読みました。
ネタバレしています。未読の方はスルーしてください。

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よくできた話だなあというのも、読了後に強く感じたことの1つでした。
ネタバレが平気という人もいるでしょうけど、この作品はできれば順を追って読んでほしいと思いました。舞台の袖からではなく、観客席でこの名演を味わっていただきたいといいますか…。主人公に感情移入しながら一緒に成長して、主人公と同じ段階を踏んでラストに辿り着いたほうがより楽しめると思うのです。
とくに物語に入り込まずに漫然と読んでも十分楽しめる作品ですけど、それだともったいないなあと。

読む前の予備知識としては「小学生の男の子が主人公のファンタジーもの」ということぐらいだったので、第一部が長いことに最初は戸惑いました。単なる導入部だろうと思っていたので。
でも、この部分だけ読んでも面白いですし、現世での亘の生活や、それが壊れていく様子がじっくり描かれていることによって、そのあとの話が感動的なものになったんだろうなあと。この後ファンタジーなんだから、ここまでシビアにしなくてもと思ったりもしましたが、「BLはファンタジーだ」というときに使う意味での――エンタメに徹するためにあえてリアリティーを削ぎ落とす(…と断言していいのか分かりませんが)ファンタジーではないので、ここでシビアにしておく必要があったんだなと後から分かりました。
まあ何が必要とか効果的とか、そんなことを考えずに物語にどっぷり浸かってしまったほうが楽しめると思いますが、感想を書こうと思いながら読んでいたので…。

物語の舞台が「幻界」に移りますと、頼りないワタルがいきなり一人で放り出されて心配しているうちに、仲間に出会ったり事件に巻き込まれたりと冒険が始まり、あまり成長したと感じさせないまま、ワタルはいつの間にか逞しくなっていきます。
ですが、「幻界」でもワタルの活躍でめでたしめでたしで解決しないことばかりで、どうにもならないことがいっぱいあります。そればかりか「現世」での苦悩まで突きつけられ、さらに1/2の確率で「半身」に選ばれそうだったりと……、楽しいこと、嬉しいこと以上に辛いことが多い気がします。
だからこそワタルは逞しく成長し、あの結論に達する、というところがすごく納得できるし、物語を追ううちに自然と読者も共感できるようになっているのだと思いました。喜びも悲しみも現実と同じ比重で味わってきたからこその結論ではないかと…。
『指輪物語』でサムが「めでたしめでたし」の後のことを考える場面がありましたが、それを思い出しました。理不尽や不幸を残しながらも、それに立ち向かっていく勇気を得るというところにこの話のよさがあるので、やっぱりシビアな展開はどうしても必要なものだったわけです。
と、そこまで考えながら再読しても、やっぱり腹が立ったり嫌な気分になったり悲しくなったりしてしまいます。かなり重たくのしかかってくるところもあります。でも、後味はすごくいいですね。
きっと「幻界」で色々なことが無事に解決して話が終わっていても、それにカタルシスを感じて勇気付けられたのではないかと思いますが、努力だけでは解決できない現実の問題をたくさん抱えた読者にとっては、こういう終わり方のほうが大きな勇気を与えられたのではないかと。
……野暮ったい感想になりましたが、やっぱりそこらへんがいいなあと思ったので。

読み返してみても、やっぱりミツルは可哀想でした。女神様、厳しいよなあと。
「現世」であれだけ理不尽な境遇(無理心中で生き残った後に親戚をたらい回し…)だったミツルが、「幻界」で大きな力を得て、ワタルと違って挫折を味わったり、影響を与えてくれる人物と出会って立ち止まって考えてみるチャンスも与えられないまま、いきなり最後にツケを払わされるのって…。
まだ小学生なのに〜。
不幸な生い立ちの小学生だから殺人が許されるとは思いませんが、同情を禁じえません。
『はてしない物語』なんかでも、小学生の主人公が自律を求められたりしてますが、めちゃくちゃ厳しいですね…。
最後に妹が来てくれて気持ち的には救われましたが、やっぱり無事に旅を終わらせてあげたかったなあと。「現世」に戻ってきてるといいのですが。
…いくらパートナーがハンサムなおじさんでも、千年一緒にいるのはイヤだろうなあと(?)

第一部でミツルがぼろぼろの靴を履いていることにワタルが気づくという場面がありました。
「ああ、保護者の目が行き届いていないんだな」と大人ならすぐに気づく、というか自然に想像してしまうものだと思いますが、子供のワタルはそれに気づきませんでした。まあ当然なのですが、ミツルはそれをどう感じていたのかが気になりました。ミツルは靴のことを言い出せなかったのではなく、辛いと感じなかったのではないかと思いました。もし誰か周りの大人がそれに気づいたら、かえって年若い叔母さんに申し訳なく思ってしまったのではないかとか…。
叔母さんそっくりで、ミツルに裏切られ、父親まで殺された皇女が、最後にミツルの顔を思い出していましたが、あれは短いながら本当に救われる場面でした。

ワタルとミツルの友情もよかったです。ワタルはミツルに結構ひどいことを言われたりもしますが、ずっと友達だと言い続けましたし、ミツルも常闇の鏡の封印を解く前にとうとう「友達の誼」だと言ってワタルを助けていましたし…。
いつかどこかで再会できれば、と思わずにいられません。

「元気でね」っていうミーナの言葉が感動的でした。
「現世」に戻ってきた亘は立場的にはやっぱり非力な子供でしかないですが、お母さんがそう感じたように、ずいぶんとしっかりしていました。
「幻界」での記憶は薄れていっても、そこで得た希望はきちんと残っているというところもいいですね。

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