木原 音瀬 オークラ出版 2001/12
読む前にタイトルで考え込んでしまった。木原作品で『甘い生活』って…。
『HOME』、『こどもの瞳』という、いかにもハートフルな家族ものラブストーリー(この表現も謎だが)を思い浮かべてしまうタイトルを思い出した。あれらははっきりいって…いや、はっきりいいたくない作品だったし、かえって「甘い」なんていわれると警戒してしまう。
かといって『嫌な奴』などとストレートにきたって、それは看板に偽りがないので安心はできない。逆に控えめ過ぎる気がするし(笑)
そういうわけで、右の頬を打たれて泣きながら左の頬をガードしたら、後頭部に一撃食らってダウン。そういうこともありえるという覚悟で臨んだ。
もちろんこんなことを真面目に書いているわけでもないですし、…だいたいにおいて私は過剰反応してるようで、さらっと楽しめる人も多いらしいです。
(参考にされると困るので、一応注意書き)
ここからネタバレ。
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趣味ではないが、面白かった。
「甘い生活」
子供になんてことを…。もとからショタは苦手だが、これはそういう問題じゃない。しかも弟にまで目を付けている…。うう……。
藤井は魅力なんてないような気がするし(…)、あまりに卑劣で感情移入なんてできない。でも、なんていうかムカつくって感じでもなくて。呆れてしまうんだけど、いつか悔悛してくれるといいなあと、そういう期待も捨てきれなかった。
ラストで立場が逆転するが、それが復讐ではなく、文和の純粋な愛情からというところが悲しい。こういう歪んだ形でしか愛されたことがないんだな、と改めて思い知らされてしまう。
「口唇エレジー」
思考法がずれているので、やっぱり感情移入はしづらい文和の視点。藤井はもちろん、義母も自分のことしか考えていないので、親友の森村の存在が本当に救いに思える。
で、森村の指摘によって文和も藤井の異常性に気付いていくのに、自分が藤井から愛されていないとは認められない。親から虐待を受けて育った子供が、周囲から非難される親を庇うのにも似ていて、読んでいて痛い。
好き嫌いは理屈じゃないけどって思いつつ、藤井から離れられたらいいのにと思ってしまう。
でも、この子の一途さにだんだん根負けしてきて、最後にはそれもありかと思っていた。
「太陽がいっぱい」
これが書き下ろしと知って、雑誌で読んだ人は大変だったなと同情……。
(そうそう雑誌掲載で思い出したが、「ホーリーは小説の作風に合ったイラストレーターを探すのが上手い」と書いたことがあったが、あれは雑誌アイス掲載時のものをそのまま使っていることが多いそうで。こんなところで、ちょっと訂正。)
その後、優しい先輩(?)とうまくいっているのかと思ったら、暴力男に遊ばれている藤井。うーん、とくに同情はできないが、だからといって藤井がこんな酷い目にあわせられても、ザマーミロとはさすがに思えず…。
こいつとくらべれば絶対に文和のほうがいいと思うのに、なんでこれだけ尽くされて(まとわりつかれて?)気持ちが傾かないんだろうと、それが結構読んでいて疑問で。でもまあ…確かに年齢の問題を抜きにしても、頼りにはならないし、そういうこともあるかと思ったり。
悔悛どころか、反省も成長もない藤井、どんどん少なくなっていく残りページ数。うわー、このまま終わっちゃうのかと本気で心配した。もうなんでもいいから、文和に幸せになってもらいたいと思い始めたところで、森村になんで藤井なのかと聞かれて文和が答える。「清隆は弱い」と。(本が手元にないので原文と違うかも)
ああ、そうか、これかとすっきりした。「甘い生活」で自分が藤井にムカつかなかった理由が分かったような気分。べつに許せるわけでもないんだけど。
なんていうか、弱さに同情するというより、弱さを知ることで藤井の性格がこういうものなんだと受け入れやすくなったというか。ちょっと自分の感情を脇において見直せるというか。うーん、説明が難しい…。
そうなると文和が魅力なんて欠片もないような(あるにはあると思うけど、イヤなところのほうが目に付く)藤井を選んだ気持ちも分かるような気がして。理由なんて探さなくても、情が移った、で十分かもしれないけど…。
藤井が文和を邪険にしながら、遠ざけることができなかったところとか思い返してみると、ラストの台詞は藤井の本心じゃないかという気がするし、後味のいい終わり方だったと思う。
…とにかく安心できてよかった。
(小説65)
読む前にタイトルで考え込んでしまった。木原作品で『甘い生活』って…。
『HOME』、『こどもの瞳』という、いかにもハートフルな家族ものラブストーリー(この表現も謎だが)を思い浮かべてしまうタイトルを思い出した。あれらははっきりいって…いや、はっきりいいたくない作品だったし、かえって「甘い」なんていわれると警戒してしまう。
かといって『嫌な奴』などとストレートにきたって、それは看板に偽りがないので安心はできない。逆に控えめ過ぎる気がするし(笑)
そういうわけで、右の頬を打たれて泣きながら左の頬をガードしたら、後頭部に一撃食らってダウン。そういうこともありえるという覚悟で臨んだ。
もちろんこんなことを真面目に書いているわけでもないですし、…だいたいにおいて私は過剰反応してるようで、さらっと楽しめる人も多いらしいです。
(参考にされると困るので、一応注意書き)
ここからネタバレ。
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趣味ではないが、面白かった。
「甘い生活」
子供になんてことを…。もとからショタは苦手だが、これはそういう問題じゃない。しかも弟にまで目を付けている…。うう……。
藤井は魅力なんてないような気がするし(…)、あまりに卑劣で感情移入なんてできない。でも、なんていうかムカつくって感じでもなくて。呆れてしまうんだけど、いつか悔悛してくれるといいなあと、そういう期待も捨てきれなかった。
ラストで立場が逆転するが、それが復讐ではなく、文和の純粋な愛情からというところが悲しい。こういう歪んだ形でしか愛されたことがないんだな、と改めて思い知らされてしまう。
「口唇エレジー」
思考法がずれているので、やっぱり感情移入はしづらい文和の視点。藤井はもちろん、義母も自分のことしか考えていないので、親友の森村の存在が本当に救いに思える。
で、森村の指摘によって文和も藤井の異常性に気付いていくのに、自分が藤井から愛されていないとは認められない。親から虐待を受けて育った子供が、周囲から非難される親を庇うのにも似ていて、読んでいて痛い。
好き嫌いは理屈じゃないけどって思いつつ、藤井から離れられたらいいのにと思ってしまう。
でも、この子の一途さにだんだん根負けしてきて、最後にはそれもありかと思っていた。
「太陽がいっぱい」
これが書き下ろしと知って、雑誌で読んだ人は大変だったなと同情……。
(そうそう雑誌掲載で思い出したが、「ホーリーは小説の作風に合ったイラストレーターを探すのが上手い」と書いたことがあったが、あれは雑誌アイス掲載時のものをそのまま使っていることが多いそうで。こんなところで、ちょっと訂正。)
その後、優しい先輩(?)とうまくいっているのかと思ったら、暴力男に遊ばれている藤井。うーん、とくに同情はできないが、だからといって藤井がこんな酷い目にあわせられても、ザマーミロとはさすがに思えず…。
こいつとくらべれば絶対に文和のほうがいいと思うのに、なんでこれだけ尽くされて(まとわりつかれて?)気持ちが傾かないんだろうと、それが結構読んでいて疑問で。でもまあ…確かに年齢の問題を抜きにしても、頼りにはならないし、そういうこともあるかと思ったり。
悔悛どころか、反省も成長もない藤井、どんどん少なくなっていく残りページ数。うわー、このまま終わっちゃうのかと本気で心配した。もうなんでもいいから、文和に幸せになってもらいたいと思い始めたところで、森村になんで藤井なのかと聞かれて文和が答える。「清隆は弱い」と。(本が手元にないので原文と違うかも)
ああ、そうか、これかとすっきりした。「甘い生活」で自分が藤井にムカつかなかった理由が分かったような気分。べつに許せるわけでもないんだけど。
なんていうか、弱さに同情するというより、弱さを知ることで藤井の性格がこういうものなんだと受け入れやすくなったというか。ちょっと自分の感情を脇において見直せるというか。うーん、説明が難しい…。
そうなると文和が魅力なんて欠片もないような(あるにはあると思うけど、イヤなところのほうが目に付く)藤井を選んだ気持ちも分かるような気がして。理由なんて探さなくても、情が移った、で十分かもしれないけど…。
藤井が文和を邪険にしながら、遠ざけることができなかったところとか思い返してみると、ラストの台詞は藤井の本心じゃないかという気がするし、後味のいい終わり方だったと思う。
…とにかく安心できてよかった。
(小説65)
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