吸血鬼には向いてる職業 感想2
2007年9月23日 榎田尤利
感想2
とっても気に入ってしまったので、もう少し感想を書いておきたくなった。前回はあまりにも自分が熱くなっているという自覚があったので、抑えて抑えて冷静に、かつ短く書こうと努力した。けど、そのせいで心残りができてしまったので、今日は思う存分書いておこうかなと。
愛が有り余っちゃって……。
では、心置きなく書くためにお断りを。
ここからネタバレ感想。
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まずは、前回文章について書くつもりが視点のことしか書かなかったので、気に入った文を引用してみようかと。
あまりにも漢字変換が面倒くさそうなので引用を迷ってしまったが、この作品で最初に痺れた名文を。
「橈側手根屈筋が攣れるほどに、強く。」(P9)
楽しい。もうこの一文を読んだだけで、この作品好きだなーと思ってしまった。面白いだけじゃなくて、一文としてのリズム、的確さがある。こういうのを書ける人はなかなかいないのではないだろうか。
あとはこれ。
「八月の夜風が、藍のヘアピースを靡かせている。」(P109)
このセンスが素晴らしい。さりげなく笑える。油断していたので、噴き出してしまった。
笑ったところは数が多すぎるし、全部書いても仕方ないので書かないが、この二つは文章の力で笑ったという感じなので抜き出してみた。
ついでに気に入っている台詞も引用。
「先生はね、僕のような美青年がお好みなんですよ」(P102)
並の編集者には言えない台詞だ。見上げたオタク魂…いや、編集根性に感心した。
…この場面、本当に電車の中で苦しかった。やー、笑った。
「つまりあれだ。献血にご協力くださいというやつだ」(P129)
黒田先生にしか言えない口説き文句。その後の殺し文句も野迫川にしか使えないものだし、笑いを取りつつ愛も感じさせるなんて、さすがです。
腹筋を鍛えられたし、先生に惚れ直しました。
吸血鬼というモチーフを使った作品が結構好きだ。
吸血鬼ものとしてこの作品を見ると、やはりコメディなので、ずいぶん制約の少ない、人間的な吸血鬼になっている。そうやって吸血鬼もののとっつきづらさを取り払っておいて、ポイントはしっかり押さえているので物足りなさはない。バランスのよさが、さすがエダさんという感じ。
吸血鬼もののラブストーリーできっちり書いてくれないと気がすまないのは、この先どうするの、という問題。つまり、相手を仲間に引き入れるかどうか。
愛する相手を吸血鬼にしてしまう、という選択は、どうも好きになれない。人間としての生活を捨てて、永遠の命を手に入れ、永遠の愛を誓うというのは、美しいかもしれないが、私の趣味に合わない。「めでたし、めでたし」は限りある命だからこそ意味のあるラストだと思うし、やはり不死者が不死でいることは「呪い」じゃないと、吸血鬼ものの美学に反する。
この作品では最初から野迫川を仲間にするという選択肢がなかった。黒田は愛する人に「呪われた生」を与えたりしない。「死後」に誰の記憶にも残らないような「生」はやはり呪われたものだし、そういう点を曖昧にしなかったことがこの作品のよさだ。
野迫川は黒田の孤独を本当の意味で理解しているのだろう。「黒田の旅を終わらせるかどうか」を選ぶというのは、愛していればいるほど難しく、相当な覚悟がなければできない。野迫川が選ぶ覚悟をしたということは、黒田の苦悩を丸ごと引き受けたのと同じ意味を持っているのだと思う。
重苦しくせずにこういうのを表現できるところも、改めてすごいなあと。
とっても気に入ってしまったので、もう少し感想を書いておきたくなった。前回はあまりにも自分が熱くなっているという自覚があったので、抑えて抑えて冷静に、かつ短く書こうと努力した。けど、そのせいで心残りができてしまったので、今日は思う存分書いておこうかなと。
愛が有り余っちゃって……。
では、心置きなく書くためにお断りを。
ここからネタバレ感想。
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まずは、前回文章について書くつもりが視点のことしか書かなかったので、気に入った文を引用してみようかと。
あまりにも漢字変換が面倒くさそうなので引用を迷ってしまったが、この作品で最初に痺れた名文を。
「橈側手根屈筋が攣れるほどに、強く。」(P9)
楽しい。もうこの一文を読んだだけで、この作品好きだなーと思ってしまった。面白いだけじゃなくて、一文としてのリズム、的確さがある。こういうのを書ける人はなかなかいないのではないだろうか。
あとはこれ。
「八月の夜風が、藍のヘアピースを靡かせている。」(P109)
このセンスが素晴らしい。さりげなく笑える。油断していたので、噴き出してしまった。
笑ったところは数が多すぎるし、全部書いても仕方ないので書かないが、この二つは文章の力で笑ったという感じなので抜き出してみた。
ついでに気に入っている台詞も引用。
「先生はね、僕のような美青年がお好みなんですよ」(P102)
並の編集者には言えない台詞だ。見上げたオタク魂…いや、編集根性に感心した。
…この場面、本当に電車の中で苦しかった。やー、笑った。
「つまりあれだ。献血にご協力くださいというやつだ」(P129)
黒田先生にしか言えない口説き文句。その後の殺し文句も野迫川にしか使えないものだし、笑いを取りつつ愛も感じさせるなんて、さすがです。
腹筋を鍛えられたし、先生に惚れ直しました。
吸血鬼というモチーフを使った作品が結構好きだ。
吸血鬼ものとしてこの作品を見ると、やはりコメディなので、ずいぶん制約の少ない、人間的な吸血鬼になっている。そうやって吸血鬼もののとっつきづらさを取り払っておいて、ポイントはしっかり押さえているので物足りなさはない。バランスのよさが、さすがエダさんという感じ。
吸血鬼もののラブストーリーできっちり書いてくれないと気がすまないのは、この先どうするの、という問題。つまり、相手を仲間に引き入れるかどうか。
愛する相手を吸血鬼にしてしまう、という選択は、どうも好きになれない。人間としての生活を捨てて、永遠の命を手に入れ、永遠の愛を誓うというのは、美しいかもしれないが、私の趣味に合わない。「めでたし、めでたし」は限りある命だからこそ意味のあるラストだと思うし、やはり不死者が不死でいることは「呪い」じゃないと、吸血鬼ものの美学に反する。
この作品では最初から野迫川を仲間にするという選択肢がなかった。黒田は愛する人に「呪われた生」を与えたりしない。「死後」に誰の記憶にも残らないような「生」はやはり呪われたものだし、そういう点を曖昧にしなかったことがこの作品のよさだ。
野迫川は黒田の孤独を本当の意味で理解しているのだろう。「黒田の旅を終わらせるかどうか」を選ぶというのは、愛していればいるほど難しく、相当な覚悟がなければできない。野迫川が選ぶ覚悟をしたということは、黒田の苦悩を丸ごと引き受けたのと同じ意味を持っているのだと思う。
重苦しくせずにこういうのを表現できるところも、改めてすごいなあと。
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