ROSE GARDEN

2007年11月9日 木原音瀬
木原音瀬 蒼竜社 (1)2005/9、(2)2005/11

木原ファンタジー。
痛くて重苦しそうだし、どんな恐ろしい世界観なのだろうと怖くてあんまり読みたくなくて、どうしたものかと9月半ばから2ヶ月近くも悩んでいたのだが、疲れているときに自棄になって読み始めたら、面白くて一気読みしてしまった。
読めば面白いんだけど、読み始めるまでが辛い。

うーん、別のイラストで読みたかったな。あんまり好きじゃない。でも1(1巻ではなく雑誌掲載分という意味)のラストのイラストは綺麗だー。

激しくネタバレ

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関係性。
嘘つきでワガママで自分の都合しか考えない子供っぽい天使と、心優しい悪魔と人間のハーフの話。
この設定からして、すでに木原作品らしさが滲み出ているが、さらに二人の関係性もいつものパターン。一人が徹底的に片思いをしていて、相手には徹底的に嫌われているが、隠されているので気付かない、という構図。FTであっても相変わらず痛い関係性だ。
そこから転機が訪れて、ある日いきなり嫌っていた相手への愛に目覚めるというのも木原作品らしい。幸せは失ってみないと気付かないし、愛情は離れてみないと自覚できない、というようなことをガツンと現実の厳しさとともにぶつけてくる。そこからの主人公の一途さや成長していく様子がいつも感動的で、同じような構成を取っていてもそれぞれの作品ごとの味わいは薄れず、飽きるようなことはない。
ファンタジー。
ファンタジーといっても剣と魔法の世界での冒険譚ではない。天使という存在がものすごく俗っぽく、人間世界とたいして変わりがないように思えるところも、やけに夢がなくて木原作品らしいと思った。それならFTじゃなくてもいいのかというと、そうでもない。FTらしい味付けがしっかりされていて、そういう意味でも楽しく読めた。ウォーレンの過去の話なんて辛いばかりの話だが、ストーリーにぐいぐい引き込まれた。
それと天使に神聖を感じさせない設定が、ウォーレンの存在と対比させずにはいられず、行間でものすごく活きていると思った。
BL。
BLらしさは2の途中でかなり薄れる。でも、やっぱり大前提がBLらしいと思う。そばにいないと守れないという設定は、BL読者としてかなり好みだ。1ではウォーレンの片思いが切なく、2ではカイルの愛情が育っていく過程にじんわりする。根底はしっかりラブストーリーになっているところがいい。
以上、前置き終わり。

覚悟はしていたが、ウォーレンの凄惨な生い立ち、不幸な人生、同情せずにはいられない現在(カイルと同居している時期)の生活、すべてが痛い。弱さのためにカイルを傷つけてしまう場面なども、どちらかといえばウォーレンに同情して痛みを感じてしまう。でもそれだけの過酷な運命と弱さを持っていて、なおも優しさを持ち続けるウォーレンの生き方と強さには胸を打つものがある。そしてそうした背景が描かれているからこそ、ウォーレンの穏やかな人柄に魅力を感じ、スネアたちがウォーレンに与えてくれる小さな幸せをより一層暖かく感じさせてくれるのかもしれない。
一方でカイルの愚かさが際立ってしまうのだが、彼の立場にしてみれば、ウォーレンのしたことを許せないのは当たり前だと私は思った。確かに暴言ではあったが…今までの生活のすべてを奪われて、毎日命の危険に晒されていれば、相手を憎まずにはいられないだろう。それにカイルは愚かだけど、スネアに見せる愛情などを見ていると、純粋性を感じて、なんだか可愛い。
2は小説としてすごく面白かった。天界を去って地上に降りた天使が、世間を知り、善や悪について自分で考えるようになり、辛い目にあいながらも、優しい人の力を借りて愛情や思いやりを身につけていく姿が感動的だ。
BLとしては弱い…と読んでいる間は思っていたが、この感想を書きながら思い返してみたらそうでもなかった。
ウォーレンに会いに行ったものの、素直になれずに傷つけてしまい、告白しても信じてもらえず、失恋して自殺未遂をし(さすが木原作品…すごい展開だ)、ボロボロになってたどり着いた町で娼婦に拾われる。ここまではいいとして、ここからがちょっと恋愛ものらしさが足りないかなと思っていたのだが、ウォーレンに会うのが怖いと思い、失恋を受け入れていきながら、自分勝手なままだった愛情の形が少しずつ、穏やかで深いものになっていっていくところがいい。その間に二人を結びつけるものはブローチの話ぐらいだが、カイルが結婚するウォーレンの幸せを願えるようにまでなり、本当に困っているのにウォーレンを頼ろうとせず、ただ死ぬ前に一目だけでも会いたいと思うほど、強くて純粋な愛情を育てるまでに必要な道筋だったのだと、読み終わってしばらくしてからやっと気付いた。
恋愛ものとしても感動的だったが、もっと広義の愛情や善悪についてまで考えさせられる深い話だった。しかも物語性が強くて、最後まで話に引き込まれたままだった。
いい話を読んだ。
贅沢をいえば、もうちょっと幸せになってからの二人を読ませてもらいたかったなあ。

(小説121)

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