最後のテロリスト
2007年12月9日 BL作家た・な・は行 コメント (2)谷崎 泉 二見書房 2007/04、05、06
骨格がしっかりしていそうな雰囲気の表紙やあらすじなので気になってはいたのだが、日常系が好きな私の趣味には合わないだろうとスルーしていた作品。
古本屋で3冊まとめて見かけたので購入。まあたまにはこういう作品もいいかなと。
いえ、秋林さんのご感想があまりに興味深かったので、これは読まねばと。
ネタバレ注意
私の趣味には合わなかったので誉めてません。この作品がお好きな方はその点もご注意ください。
うーん。感想書き上げるのに3時間もかかったけど、この内容なら書かないほうがよかったか…。
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今まで読んだ谷崎作品は『君好き』と『眩暈』、『ドロシーの〜』(雑誌掲載時)だけ。キャラと文章が趣味に合わないので避けていたのだが、残念ながら今回も私には合わないという結論に…。
やはり私にとって最大のネックはあっちこっちへころころ変る視点。さすがに誰の視点なのか分からないということはないし、状況説明シーンでは気にならないのだが、心理描写が多く入る大事な場面になるほど気になってしまう。なにかこう…ぶつ切り感がある。感情移入しかけたところでぶった切られるので、うるさく感じてしまう。
たとえば、二人きりにしてあげたほうがいいだろうと気を利かせて部屋を出て行く場面なら、出て行ったと書けば気を利かせたことぐらい伝わるのに、わざわざ出て行く側の視点に移す。うーん、ここは地の文章もキャラ同様気を利かせてほしい。
同じように気になったのが、「○年後」と入ること。マンガやドラマなら分かりやすくなっていいのだが、小説で多用されると…。章(場面)が変わり、これはいつ?とじれったく思いながら読み進めていくと、さらっと時系列が分かるような一文が入るというスタイルが好きなので、趣味の問題だろうがどうにも味気なく感じてしまう。分かりにくくていい。…ここで端折るなら、○年後から話を始めればよかったのにとつい思ってしまう。
ただ、○年前も本編で書きたかったというのはよく分かる。だって面白いから。ここは削りたくないよね。
あとはやっぱりキャラと要素が多い。それが谷崎作品の持ち味だと思うので、私の趣味に合わないというだけなのだが。
1巻。
面白かった。これからの展開に期待を抱かせつつ、甘いラブストーリーにもなっていて、素直に感情移入しながら楽しめる。凪と威士は微妙に好みじゃないものの、好感の持てるキャラで、あ、谷崎キャラでもこういう共感しやすいタイプいるんだーと感心してしまった。
頭を押さえつけられながら、それでも信頼できる相手を見つけて目標に向かって歩き出す。どうやって二人が成長し、成功していくのかと楽しみになった。ハードな世界で生きていくことになった二人だけど、心のよりどころを見つけたのできっと大丈夫。ポイントを押さえていて上手いし、やっぱりこういう恋愛以外の強い絆はツボ。
2巻。
最初はわくわくしながら読んだ。色々な謎を抱えながら始まった東京での生活、頭脳戦。ところがBL要素が出てきた途端に…あら?と。いくら頭がよくてもカッコよくても、これじゃストーカーじゃないですか。ムリヤリから始まってあっさり落ちる受というのもまったく共感できない。
私にはよくわかんないけど惹かれあってるんだね、とちょっと流しながら読み進めていくと、いきなり中国行き。まあそうだね、いくら助けてあげても、ここからいきなり手を繋いでデートする関係にはなれないだろうしと、とりあえず納得。大陸でタイトルに関わってくるテロリストの話に移行していくのか〜とぼんやり思っていたら、訃報。えー?
3巻。
それじゃあれだ、乗り越えるべき父親役だった氷川が乗り越える前に死んでしまい、宙ぶらりんで放り出されてしまった蓮の葛藤と、そこから立ち直って強くなっていく過程を…あれ、違うの?
話は唐突にセキの仕事関係に。
読み終わって思ったこと。3巻の表紙は的確だ。もし谷崎泉カルトクイズを作る方がいらしたら、ぜひ初級編として採用して欲しい設問がある。
「作中でセキはいくつの携帯電話を所有していたでしょう?」
なんかセキはずっと電話していたような印象がある。
…気を取り直して読み進めた。
セキというキャラは恋愛さえしていなければ、わりと好みのタイプだ。クールで頭がよくて慎重で、情に厚いところがあり、人望もある。前後の流れを気にしなければ、セキが仕事を畳むまでの経緯は面白かった。…恋愛が入ると、流され系のグダグダでどうにも共感しづらいというか、カッコよくない。
江木が好きなので、彼がひどい目にあわないかと最後までスリリングでしたよ。殺伐とした中で和ませてくれたし、忠実な右腕って好きで。
うーん、いっそのことBL要素を大幅に削ってハードなシーンを増やしたほうが、結果的にチラリズム効果でBLとしても楽しめたんじゃないだろうか。威士の恋愛との違いが出ていて面白いことは面白いんだけど、ちょっと物足りない。2巻では「使えそうな男」だったセキが、ラストでは「足手まとい」になっているあたりも残念だ。
南雲と唐沢が出てきた理由がよく分からない。氷川との関係も分からない。永井の話と意外なところで繋がって、点と点が線になるというのを期待していたので、消化不良な気分。…タイトルと永井の存在がちょっと据わりが悪いというか。もしかして書きたいテーマが途中で変っちゃったのかとさえ疑ってしまう。
誰だったかな。自分の作品の時系列とか細かい設定が分からなくなっちゃったけど、担当さんが年表を作ってくれて助かりました、とあとがきに書いてる作家さんがいたのを思い出した。
谷崎先生に必要なのは伏線回収チェック表かもしれない。もっとも、忘れているんじゃなくて、すべてを語る必要はないという判断なのかもしれないが。その場合は処置なしだ。そういうものだと読者のほうが慣れるしかない。
それにしても威士はいい男になったなあと。威士と蓮の絆と、興津の行く末に主眼を置いたほうがまとまりもよかったし、面白かったんじゃないかな。5冊ぐらいにすれば、セキを主役に置く話を挟んでも十分その路線でいけたと思う。
(小説130-132)
骨格がしっかりしていそうな雰囲気の表紙やあらすじなので気になってはいたのだが、日常系が好きな私の趣味には合わないだろうとスルーしていた作品。
古本屋で3冊まとめて見かけたので購入。まあたまにはこういう作品もいいかなと。
いえ、秋林さんのご感想があまりに興味深かったので、これは読まねばと。
ネタバレ注意
私の趣味には合わなかったので誉めてません。この作品がお好きな方はその点もご注意ください。
うーん。感想書き上げるのに3時間もかかったけど、この内容なら書かないほうがよかったか…。
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今まで読んだ谷崎作品は『君好き』と『眩暈』、『ドロシーの〜』(雑誌掲載時)だけ。キャラと文章が趣味に合わないので避けていたのだが、残念ながら今回も私には合わないという結論に…。
やはり私にとって最大のネックはあっちこっちへころころ変る視点。さすがに誰の視点なのか分からないということはないし、状況説明シーンでは気にならないのだが、心理描写が多く入る大事な場面になるほど気になってしまう。なにかこう…ぶつ切り感がある。感情移入しかけたところでぶった切られるので、うるさく感じてしまう。
たとえば、二人きりにしてあげたほうがいいだろうと気を利かせて部屋を出て行く場面なら、出て行ったと書けば気を利かせたことぐらい伝わるのに、わざわざ出て行く側の視点に移す。うーん、ここは地の文章もキャラ同様気を利かせてほしい。
同じように気になったのが、「○年後」と入ること。マンガやドラマなら分かりやすくなっていいのだが、小説で多用されると…。章(場面)が変わり、これはいつ?とじれったく思いながら読み進めていくと、さらっと時系列が分かるような一文が入るというスタイルが好きなので、趣味の問題だろうがどうにも味気なく感じてしまう。分かりにくくていい。…ここで端折るなら、○年後から話を始めればよかったのにとつい思ってしまう。
ただ、○年前も本編で書きたかったというのはよく分かる。だって面白いから。ここは削りたくないよね。
あとはやっぱりキャラと要素が多い。それが谷崎作品の持ち味だと思うので、私の趣味に合わないというだけなのだが。
1巻。
面白かった。これからの展開に期待を抱かせつつ、甘いラブストーリーにもなっていて、素直に感情移入しながら楽しめる。凪と威士は微妙に好みじゃないものの、好感の持てるキャラで、あ、谷崎キャラでもこういう共感しやすいタイプいるんだーと感心してしまった。
頭を押さえつけられながら、それでも信頼できる相手を見つけて目標に向かって歩き出す。どうやって二人が成長し、成功していくのかと楽しみになった。ハードな世界で生きていくことになった二人だけど、心のよりどころを見つけたのできっと大丈夫。ポイントを押さえていて上手いし、やっぱりこういう恋愛以外の強い絆はツボ。
2巻。
最初はわくわくしながら読んだ。色々な謎を抱えながら始まった東京での生活、頭脳戦。ところがBL要素が出てきた途端に…あら?と。いくら頭がよくてもカッコよくても、これじゃストーカーじゃないですか。ムリヤリから始まってあっさり落ちる受というのもまったく共感できない。
私にはよくわかんないけど惹かれあってるんだね、とちょっと流しながら読み進めていくと、いきなり中国行き。まあそうだね、いくら助けてあげても、ここからいきなり手を繋いでデートする関係にはなれないだろうしと、とりあえず納得。大陸でタイトルに関わってくるテロリストの話に移行していくのか〜とぼんやり思っていたら、訃報。えー?
3巻。
それじゃあれだ、乗り越えるべき父親役だった氷川が乗り越える前に死んでしまい、宙ぶらりんで放り出されてしまった蓮の葛藤と、そこから立ち直って強くなっていく過程を…あれ、違うの?
話は唐突にセキの仕事関係に。
読み終わって思ったこと。3巻の表紙は的確だ。もし谷崎泉カルトクイズを作る方がいらしたら、ぜひ初級編として採用して欲しい設問がある。
「作中でセキはいくつの携帯電話を所有していたでしょう?」
なんかセキはずっと電話していたような印象がある。
…気を取り直して読み進めた。
セキというキャラは恋愛さえしていなければ、わりと好みのタイプだ。クールで頭がよくて慎重で、情に厚いところがあり、人望もある。前後の流れを気にしなければ、セキが仕事を畳むまでの経緯は面白かった。…恋愛が入ると、流され系のグダグダでどうにも共感しづらいというか、カッコよくない。
江木が好きなので、彼がひどい目にあわないかと最後までスリリングでしたよ。殺伐とした中で和ませてくれたし、忠実な右腕って好きで。
うーん、いっそのことBL要素を大幅に削ってハードなシーンを増やしたほうが、結果的にチラリズム効果でBLとしても楽しめたんじゃないだろうか。威士の恋愛との違いが出ていて面白いことは面白いんだけど、ちょっと物足りない。2巻では「使えそうな男」だったセキが、ラストでは「足手まとい」になっているあたりも残念だ。
南雲と唐沢が出てきた理由がよく分からない。氷川との関係も分からない。永井の話と意外なところで繋がって、点と点が線になるというのを期待していたので、消化不良な気分。…タイトルと永井の存在がちょっと据わりが悪いというか。もしかして書きたいテーマが途中で変っちゃったのかとさえ疑ってしまう。
誰だったかな。自分の作品の時系列とか細かい設定が分からなくなっちゃったけど、担当さんが年表を作ってくれて助かりました、とあとがきに書いてる作家さんがいたのを思い出した。
谷崎先生に必要なのは伏線回収チェック表かもしれない。もっとも、忘れているんじゃなくて、すべてを語る必要はないという判断なのかもしれないが。その場合は処置なしだ。そういうものだと読者のほうが慣れるしかない。
それにしても威士はいい男になったなあと。威士と蓮の絆と、興津の行く末に主眼を置いたほうがまとまりもよかったし、面白かったんじゃないかな。5冊ぐらいにすれば、セキを主役に置く話を挟んでも十分その路線でいけたと思う。
(小説130-132)
コメント
「1巻オススメ、2巻以降はお好みで」だなんてイレギュラーな薦め方、できるわけないじゃないですかー!
>同じように気になったのが、「○年後」と入ること。
「○年後」はですね、書き手なら一度はやってみたい表現なんじゃないでしょうか。読むこっちとしては、「谷崎作品でそれはヤバイんじゃ?」と思うんですけどね…くっそー!
>あっちこっちへころころ変る視点
「谷崎劇場」なんだと思います。「谷崎泉=神」視点、頭の中でストーリーが出来上がっていて、それを客観的に書いてるという感じ。別の言い方をすれば「谷崎監督の演出による群像劇」かな。だからあっちこっち変わるんです…たぶん。慣れると快感。こんな個性的な書き方する人、ほかにいないですよね。仮にいても、絶対に混乱する、もしくは「あ、谷崎泉のマネしてる」だろうなあ。
>谷崎キャラでもこういう共感しやすいタイプいるんだー
谷崎泉でもこういうわかりやすい話書けるんだーと感動したんですけどね…。まさか真冬ちゃんに持っていかれるとは思ってなかったですよ…。
りょうさん向きでない本なので、お読みになるとは思っておりませんでした。すみません…。
うーん…。読み応えがあるだけに、惜しいですね。
>「○年後」はですね、書き手なら一度はやってみたい表現なんじゃないでしょうか。
なるほど…。確かに効果的ではありますよね。
>「谷崎劇場」なんだと思います。「谷崎泉=神」視点、頭の中でストーリーが出来上がっていて、それを客観的に書いてるという感じ。別の言い方をすれば「谷崎監督の演出による群像劇」かな。
群像劇という言い方はぴったりだと思います。
キャラが多いので、主役以外の心情もいちいち描写していかないと、分かりづらくなってしまうのかもしれません。
>こんな個性的な書き方する人、ほかにいないですよね。
単に視点がブレているだけという人ならいますが…。ここまで視点がめまぐるしく移動する書き方は珍しいと思います。
>まさか真冬ちゃんに持っていかれるとは思ってなかったですよ…。
本命の彼が2巻から登場とは…。変わった構成ですよね。
>りょうさん向きでない本なので、お読みになるとは思っておりませんでした。
はい…。ハード系は避けているのですが、秋林さんのご感想や、他の方々のコメントを拝見して読みたくなってしまいました。皆様が惜しいとおっしゃっていた意味がわかって、もやもやっとした気分になりました……。