うえだ真由 新書館 2005/10

冬のベタな話、3作目。(←私が読んだ順番)

完全ネタバレ

あらすじ
里央は親友の陽史に密かに想いを寄せていた。だが陽史の恋人が半年間の留学に出発した日、見送りに行ったふたりは事故に遭い、陽史が記憶喪失になってしまう。彼女の存在も忘れた陽史は、親身に面倒を見てくれる里央を自分の恋人だったと思い込む。ずっと叶わぬ恋だと諦めていた。でも、ひとときでも陽史の恋人になってみたい―。その気持ちに抗えず、里央は陽史のキスを受けてしまい…。罪と愛の幻想曲。
陽史の留学した彼女は、政治家の娘で婚約者までいるため、二人は人目を憚って付き合っている。親友の里央だけがそれを知っていて協力しているという状況。記憶を失った陽史は「自分には恋人がいたらしい」、「でも人には隠していたらしい」と悟り、男の里央が恋人なら辻褄が合うと思うのだが。
このあたりの流れにBLFT特有の強引さ、無理を感じないので、記憶喪失ものであっても引っかかりがなく読みやすかった。
里央が最初に嘘をついたときは、おいおいおい…とついていけないものを感じた。絶対にしてはいけないことだし、後から自分が苦しくなるだけなのは目に見えている。でも、魔が差してしまう感覚が分かるだけに、やめとけ、やめとけっていう心配から苛立ってしまったりもした。陽史が記憶を取り戻そうと頑張りながら、だんだん里央に惹かれていくのが分かるので、嘘を積み重ねていく状況がすごく痛々しい。
撤回する機会はいくらでもあったのに、里央は深みにはまり、罪悪感に押しつぶされていく。陽史の本当の恋人の黎子のことを考えれば里央のやっていることは許されないが、黎子のほうがちょっと狡い付き合い方をしていただけに、一途な里央がかわいそうになってしまった。とくに最後に思い出を作ろうと旅行する場面は、明るく甘い分だけ切なくなった。
黎子の帰国に合わせて真実を告白した里央に対しての陽史の返答がよかった。まったく責めなかったら、やっぱり嘘っぽい。記憶を失う前は黎子のことを本気で好きだった、里央のことは友達としてしか見ていなかった、というところが、確かにベタな話なんだけど一本筋が入っていて、感情移入しやすい。「怒ってるけど、それ以上に好き」だから黎子より里央を選ぶというラストが甘くてよかった。
続編のほうも、陽史の甘やかすだけじゃない包容力があってよかった。里央のほうには、うじうじしててちょっとイラつかされる。でも騙していたことに罪悪感を持ち続け、萎縮してしまうような真面目な子だからこそ切なくなったり応援したくなったりするんだろうなあ。

私の趣味とはちょっと違うんだけど、切なくて可愛らしい、いい話だった。

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