WELL

2008年2月29日 木原音瀬
蒼竜社 2007/02

有言実行。
…読み出したら一気に読めた。別に読みづらくない。
人には絶対薦めない作品。

★★★★

普段はごちゃごちゃとした感想を数値化するのが面倒で星評価はしていないのだが、今回はまとまった感想を書けそうにないし、せめて星評価でもつけておかないと読んでどう思ったかが伝わりにくそうなのでつけてみた。
以下、たいして感想らしい感想は書かないけど激しくネタバレあり。

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いくら面白かったり感動したりしても読み返したくない作品というのがたまにあるけど、これはそういうタイプの作品だと思った。
読まなければよかったとは思わないが、もう一回封印してしまいたいというか。開けてしまったプレゼントを包みなおしても元には戻らなくて、ちょっと包装紙が浮いて不恰好になった状態で奥のほうにしまいこむみたいな気分になった。

うーん。これの感想を書くならカニバリズムについて書くことは避けて通れないが、さらっと書くにはテーマが重すぎるし、きちんと書くと本の感想の範疇じゃなくなりそうだ。もちろん自分なりの感想やら意見やらはある。でも、文章能力の問題でそれを分かりやすく論理立てて書くのは私には無理。たぶん中途半端で消化不良な内容になってしまうだろうなあと。まあ、読みたい人もいないだろう…。
一応お断りしておくと、これは私の感想の書き方のスタイルの問題であって、人様がこの作品の感想を気軽に書くことに対してケチをつけたり、意見したりしているわけではありません。むしろ人様の感想が読んでみたい作品だし。

ネタバレを避けていたので他人の評価はよく知らないのだが、この作品は痛い作品という噂というか感触があった。普通自分が気に入った作品がマイナス評価だとがっかりしたり、気分が悪かったりするが、拒絶反応や抵抗感がないほうが不思議だと思えるあたり、やっぱり自分の中で特殊な位置づけの作品になったと思う。
読む前に予測していたような衝撃や読みづらさもないかわりに、大きな感動やそれなりのカタルシスも得られなかった。なにかこう、この作品に対する態度はニュートラル、読み終えても感情はフラットで。こう書くとつまらなかったようだが、いつも通りに物語に引き込まれ、キャラに感情移入したし、私は面白く読んだ。
ただ、感情移入はできたが、共感というものはなかったので、少し距離を置いて作品を眺められたんだと思う。

表題作は幼馴染みをモノとしか思わない亮介の性格の悪さや、一途過ぎて怖いしのぶというキャラが木原作品らしいテイストで、甘さ皆無なラストが逆にBLとして面白かった。
続編「HOPE」のほうは、BLらしさはないけど、小説として面白かった。
悲惨極まりないというか、どこにも希望や救いを見出せないような話で、突き抜けているなあと。どこかで手を緩めて、辛い中にも希望が持てるようなハッピーエンドにするほうが、たぶんこのラストよりは書きやすいんじゃないかと思うのだが、最後まで手を緩めず痛い系でまとめたのは、さすが木原さん。よくここまで書いてくれたなあと。
まあ甘い話も上手い方だが、甘い話は他の作家に任せておいて、痛い系の作品で頑張ってほしいとか一瞬思ってしまった。…甘いほうが読みやすくて好きだけど。
それにしても突き抜けてるなあ。
ここまで突き抜けているせいか、許せないとか、痛すぎるという感想は出てこなかった。ドロドロ感はなくて、ひたすら殺伐としてドライなところも読みやすかったかな。
そういう世界観の中で田村の人間臭さが際立っていて、素晴らしかった。ちょっと遠くに行ってしまった(…)亮介やしのぶにしても、これが人間ってものだよなあと思えるところが多い。こんな極限状態における人間の行動や心理は想像がつかないので、その点でリアリティがあるかどうかは分からないが、人間らしいなあと思える言動が多くて、殺伐としていて倫理感や価値観を根底から揺さぶられるような展開が続くのに、どこか安心感があった。
とくに田村の悩みは特殊な状況下にあっても理解しやすいものが多かった。心情的に受け入れられる考えや決断ではなくても、そこに至った過程はすんなりと納得できる。田村が犬を殺さないでくれと頼むシーンなんてすごく気持ちが分かって、これが人間ってものではないかと。
こんな究極的なものでなくとも、生きていく上で他人は、支えになることもあれば、重荷になることもあるというのは、日常でも感じられることだし。
正しいとか間違っているとか好きとか嫌いとかは放っておいて、受け取ったものを咀嚼せずに、ゴチャゴチャしたままにしておけばいい作品だと思った。
そんなわけで後味の悪さはなく、なんだかすがすがしい気分で読み終えた。好きでもなければ苦手でもなく、もちろんまったく趣味には合わず、小説としては面白い。しかもテーマがメチャクチャ重いという、感想を書こうと思ったらえらい扱いづらい作品。けど、こういう突き詰めたものが書けるってすごいなあ。

小説の中でぐらい夢を見たい、と思うことが多いけど、小説の中でならこんな救いのなさもいいかもしれない。

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