鳩村衣杏 幻冬舎コミックス 2006/11 

★★★

この作家さんの小説はこれで2度目。
前回は自分が苦手な設定のものを読んでしまい、しかもそれはこの作者さんにしては珍しい設定だったらしいので、これは2冊目を読まねばと思っていた。
でもなかなか趣味に合う設定のものが見つからず、ないかなー、と言っていたら「鳩繋がりでこれはどう」と別の作家さんを勧められたりした。それもいいかもねえ、と挫けそうになったが、この作品を見つけた。
どうでもいいことだが、リンクスってあんまり買ったことなかったような。

以下、激しくネタバレ

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地に足の着いた設定で地味に始まる。ふたりは同じマンションに住んでいて、宅急便の誤送がきっかけで知り合い、徐々に親しくなっていったころ、攻の沖野がゲイだと知ってしまう、という話。で、ノンケの吉永は最初は抵抗感を抱くが、結局惹かれていって…だんだん吉永のゲイとしてのステップアップの話みたいになってくる。
うーん。丁寧な心理描写でゆっくりストーリーが進んでいくので面白くはあるんだけど、もうちょっと何か…。と、思ったところで沖野が記憶喪失に!
ああ…。「!」は純粋な驚きではなく、ガッカリ感の「!」で。なんでそういう…。せっかくここまで地味に丁寧にきたのに、そんなテキトーな展開で盛り上げられても……。
もったいない、と思いつつ読み進めていったら、また衝撃。
え、ここからが真骨頂なの?
適当じゃなかった。地味好きな私でさえ退屈しそうになった前半部分が、ここからものすごく活きてくる。しかも主人公の吉永の成長ぶりが自然に描かれているし、愛情の深さが感動的。こんな純愛にはやっぱり憧れてしまう。「それだけ愛せる相手に出会えた」のではなく、「ふたりで愛を育てられた」と感じられるところがいい。
沖野は自分がゲイであることさえも思い出せなくて、最初と立場が逆転してしまったときに、沖野がくれた言葉を思い出しながら優しく接する吉永の姿がよかった。
ただ…ラストで沖野の記憶が戻らないのが寂しい。簡単に記憶が戻らないからこそ、沖野と二度目の恋をしようという吉永の健気な決意に感動するんだし、ハッピーエンドではあるんだけど。沖野というキャラが魅力的だったことと、ふたりで恋を育てていく過程がまたよかったことで、その思い出が失われてしまったのが切ない。
記憶喪失というテーマを陳腐にしないのは難しいと思う。そういう意味でもこのラストは上手い。「最後まで記憶が戻らない」というこれも使い古された感のあるラストなのだが(というより何をどうしようが新鮮味はないかも)、最後までじっくり楽しめた。このふたりなら思い出(記憶)が戻らなくても、この先新たな思い出を作っていけるだろうなあ。
というわけで、不満はまったくない。上手い。けど、面白かったからこそ、ちょっと切なくて、もやもやっとした読後感になった。
続編はなくてもいいと思う。これで完成された形だと思う。でも続きがあるなら読んでみたいと思わせる作品だった。

面白いし上手いんだけど、全体のストーリーもラストも趣味には合わないので、★3つ。★評価しないと自分でも感想がどっちつかずで分かりづらかったので、つけてみた。

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