『リベット』 木原音瀬 蒼竜社 2006/9

昨日は昼寝をしていた上に気分が沈みがちだったので、すぐに寝付けそうになくてこの作品を再読した。もう何度目の再読か分からない。
テーマが重いので人に気軽に薦めることはできないが、大好きな作品。

完全ネタバレ

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すでに一度感想らしきものを書いているのだが、読み返してみたら、テーマが重いせいか相当逃げた書き方をしていた。今回はもうちょっと正面から感想を書きたいなあと。また感想を書きたくなるかもしれないけど。

二人が両思いになるまで話が辿りついていないためか、BLではないという意見もあるようだが、私は片思いの純愛だと思う。ただ、主人公の初芝が思われる側なので、やっぱり恋愛ものとしては変わっているかもしれない。
初芝はすごく強い半面、すごく脆いところもあって魅力的。それに優しい。レイプによってHIVに感染し、病気のせいで恋人から拒絶され、副作用に苦しむ。そういう悲惨な状況で親友だった加害者や恋人を恨んだりもする。きれいなだけ、強いだけじゃない、ごく当たり前の人間的な感情も持っていて、それでも頑張っている姿に胸を打たれた。一番辛い時期に、初芝は事情をすべて知っている後輩の乾に当たってしまうのだが、ひどい言葉を投げつけたり殴ってしまったりするたびに、深く後悔と反省をする。置かれた状況を考えれば、甘えるのは仕方がないと思えるのだが、当たられる乾にしてみれば大変なことで…。「俺は、俺が嫌だ」という台詞から初芝の気持ちが痛いほど伝わってきた。八つ当たりをしてしまうのは弱さだが、自分を立て直そうとする初芝はやはり強い人だと思う。この状況で強くあろうと努力できるのはすごいことだ。
そんな初芝もラストのほうで薬を飲むのをやめてしまい、生きることを放棄してしまうが、ここで乾がしっかり受け止めてくれるところが感動的だった。乾はこの時点では完全な片思いなのに、初芝と真剣に愛し合っていた由紀でさえ受け止めきれなかったものを受け止めてくれる。まさに純愛だと思った。
でも、初芝の恋人だった由紀も責めることはできない。由紀には由紀の人生があるというだけで…。由紀の選択をひどい、冷たい、とは言えないところが、この話の重たさ、切なさだと思う。
「リベット2」では乾の視点になるが、乾の最終的な選択にほっとした。
初芝は転任先の学校で病気のことを同僚に打ち明け、「自業自得だ」と言われてしまう。そういう偏見を持たれる病気だし、病気について多くを語りたくない上に、まさか本当のことも言えないし、初芝は自業自得と言われても何も言い返せず、耐えるしかない。悪いことなんて何もしていないのに、病気そのものだけでなく、周囲の無理解や孤独とも戦っていかなくてはいけない。
だからこそ、片思いでいいから、新しい恋人ができるまでの間だけでいいから支えたいという乾の言葉が嬉しかった。本当にもう初芝を一人で泣かせておくのは嫌だと思ったから、乾の優しさをありがたく感じた。初芝のそばに乾がいてくれてよかった。

重たくて切ない話なんだけど、初芝の強さと乾の純愛に感動し、じわーっと心が暖かくなる作品だ。
カバー下の続編は嬉しかったが、やはりそこまで行く前の二人の話が読みたい。切実に続編が読みたい…。

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