杉原理生 大洋図書 2008/5

評価:★★★☆
好み度:★★

今回は一人称が「私」の人だった。
なるべく客観的につけたのが上の評価で、自分の好みだけを基準にしたのが下の評価。
これでお分かりいただけるように、私の趣味に合わないので褒めてない。

ネタバレ。
この作品、この作者がお好きな方もスルーしてください。


---------------------------------------------------

前作『スローリズム』が面白かったので期待していたのだが、とにかく趣味に合わなかった。
中途半端だ。文章も内容も。
一般向け小説を意識してるのか、妙に堅苦しい文章はラノベに向かない。文章に内容を合わせてくれていれば好きだったかもしれないが、これでは読みづらいだけ。本来BLならこれぐらいの書き方でちょうどいいんだけど、こういう文章、テーマで書かれると、掘り下げた内容を期待してしまうので、書き方が浅く感じる。
「私」という一人称がまた、いただけない。日常的に「私」と言っているならともかく、会話で「俺」と言う人間の一人称が「私」って、キャラに合ってないような。男性の「私」という一人称から受けるイメージはもっと円熟、老成したものなので、このキャラなら「ぼく」のほうが合っているんじゃないかと思ってしまう。
作者はそれほど若くもなさそうなのに(年齢知らないけど)、32歳という年齢のキャラを描くのが下手な気がする。えーっと、42歳か52歳っていわれれば本人がここまでオヤジぶるのも頷けるのだが、32歳でそこまで気持ちが老け込む人って特殊だと思う。
なんかこう、10代〜20代前半の若者から見た32歳みたい。その年代から見れば、32歳だろうと42歳だろうと等しく「オッサン」だし?
と、このように書き方がまず受け付けなかった。地味で丁寧なセンシティブ系が好きだから、もうちょっと書き方を何とかしてくれればなあと、毎回惜しく思ってしまう。まあこれは趣味の問題だから、感覚的にこれが好きという人には読みやすい文章なんじゃないかと思う。
雰囲気は好きだった。野田も若杉もそれぞれ個性的で魅力的なキャラだし、心情も丁寧に追っていていい。野田のMっぷりがグロテスクにならないところがこの作家さんらしいなあと。エッチシーンにはもうちょっと色気が欲しいけど、あんまり濃厚でも作風にあわなそうだし、これでいいのかな。
なんというか、キャラが二人とも魅力があって内面が興味深くて、ストーリーはどちらかといえば退屈なので、もっとドロドロした内側を描いたほうが私の趣味には合った。これだとちょっと物足りない。
雰囲気は楽しめたけど、感動したり切なかったり、というところまでいかなかった。
あと、主人公が受動的なのが、イライラしてしまってダメだった。やるべきこと、言うべきこと、考えるべきことを常に後回しにしているような印象があって。
奥さんの自殺は取ってつけたような感じで、話の後味を悪くする以外に機能しているのかどうか、よく分からなかった。新しい恋人とうまくいっている女性が、円満離婚を決めた夫の素行調査を興信所に依頼するのも、かなり受け付けない。自分も不倫してるのに? もうちょっとここは伏線が欲しかったな。書くなら書くで、もっと真正面からきっちり書けばいいのに。
こんな余計なものは入れないで、もっと二人の関係の中だけで話を突き詰めてほしかった。
毎回そうなのだが、「全部私が悪いんです」と考える主人公の思考についていけない。ああそうですか、と思ってしまう。悪いって思うだけで終わりだからかな。その先の行動がないから、なんだか読んでいて疲れるだけで、あまり共感もできない。会って謝るでも、話し合うわけでもない。言い訳もしないで黙り込まれれば、そりゃ相手だって余計に腹が立つだろうと…。偽装結婚じゃなかった、愛情があって結婚したんだって、本当のことなんだからきちんと義母に言えばいいのに。それを伝えるのが、傷つけてしまった相手への誠意じゃなかったんだろうか。
明日、職場でホモだってばらされるのはいいんじゃないかな。リセットしてやり直したほうがすっきりするんじゃない?
最初から最後まですっきりしないので、ついそう思ってしまった。

ここまで書いておいてなんだが、これはこれで上手いし、いい作品なんだと思う。だから結構真面目に感想を書いたつもり。
ただ私の趣味に合わなかっただけだ…。

コメント

はゆた
HAYUTA
2008年6月29日19:02

そーなんですよね〜、あちこち中途半端で。奥さんだってすっかり別の人を好きになっているのに、なんでいきなり自殺だ?!あれには本当に首を傾げた。
だからこそ、主人公たちがこの後大変な事になっていくんだろうと思ったら、それで鬱憤晴らしになってサッパリしてしまったというか・・・ごにょごにょごにょ・・・。

>もっとドロドロした内側を
これもすっごくよく分かります。最近、木原さんを読み慣れてきたせいか、物足りなくて!! 徹底的に!と。
・・・いつの間にこんな私に?(笑)

りょう
りょう
2008年6月29日20:46

はゆたさんが好意的?なご感想を書いてらしたので、ここまで悪く書いていいものかと気にしつつ、結局正直にボロクソ書いてしまったのですが…、す、すみません……。
うーん、読み応えがある作品なんですよね。だからこそ、不満があれこれ出てきてしまうといいますか。

>奥さんだってすっかり別の人を好きになっているのに、なんでいきなり自殺だ?!あれには本当に首を傾げた。

ここが一番納得いきませんでした。ショックを受けるのは分かるのですが…いくらなんでも極端だなあと。

>だからこそ、主人公たちがこの後大変な事になっていくんだろうと思ったら、それで鬱憤晴らしになってサッパリしてしまったというか・・・ごにょごにょごにょ・・・。

そうなんですよね(笑)
いろいろモヤモヤしているところに、納得のいかない展開になって、同情する前にじれったくなってしまって…。

>これもすっごくよく分かります。最近、木原さんを読み慣れてきたせいか、物足りなくて!! 徹底的に!と。

心に引っかかる描写をするという点で木原作品に通じるものがあるせいか、木原作品みたいな激しさと深さを求めてしまうのかもしれませんね。

>・・・いつの間にこんな私に?(笑)

…いつの間にかお互い、遠いところまで?来たものですね(笑)

最新の日記 一覧

<<  2025年6月  >>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293012345

お気に入り日記の更新

日記内を検索