COLD FEVER
2009年3月28日 木原音瀬
リブレ出版 2009/03
分厚いし、読み始めるまで気が重かった3巻だが、読み出すと止まらなかった。
あれ、こんなに短い話だったっけ?
シリーズ全部に対して激しくネタバレ。
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ブラック透が目覚めるところから始まる3巻。1巻に引き続きまたしても記憶のない不安に駆られるので、読んでるこっちも一緒に不安になってしまうし、先の展開が見えないから最初に読んだときは長く感じたのかもしれない。
ホワイトの透(記憶をなくしていた6年間の透)が好きだから、初めて読んだときは本当に衝撃だった。3巻が終わるまでずっと、いつか空白になってしまった6年分の記憶も戻って、全部通しで記憶が繋がるようになるんじゃないかと思っていたのだが……。2度目の今回はそうならないと分かっているので、期待をしないですむという意味では楽だったかな。
2巻であれほど甘ったるい関係だったふたりだが、透がブラックに戻ってしまい、さらに6年間の関係がバレてしまい、DVが続き…。なんかあらすじとしては簡単だけど、DVの描写が本当に痛そうで、痛い系木原作品のひとつの到達点、とまで思っていた。
けど冷静な目で(最初の衝撃がすっかり冷めてから)読み返してみると、痛さより悲しさのほうが大きい。暴力をふるう透は、子供のころ藤島にいたずらされたことと、偶然続いてしまった藤島の母親の折檻を「藤島の裏切り」として1つに結び付けて考えていて、しかも怖い記憶としてトラウマになっている。そして藤島と同じように透も孤独な人生で……。なんとなく最初に読んだときは透に同情できずにいたんだけど、今回は透にも同情できたので、暴力シーンが余計に悲しかった。
ブラック透は口下手で乱暴でホワイトのほうとは本当に別人みたいなんだけど、やっぱり同じ人だと分かる。根は優しい。記憶が戻ったと知らずに声をかけてくる商店街の人を無視したりしないし、ポートを見ると藤島にケーキを買ってやりたいと考えたりもする。それに夢のために努力を惜しまないところなんかも変ってない。
でも自分の弱さと厳しい状況と孤独に追い詰められてしまい、藤島に歪んだ執着を持ってしまう。恨むだけの理由も確かにあるわけだけど、たぶん憎むという形でしか、接することができないだけで…。
どれだけ透に殴られ、蹴られ、関係を強要されても、藤島は逃げ出さない。弱い人間だけど、ここにきて強くなったなあと思う。もちろん透への負い目と愛情がそうさせるんだろうけど、優しかった恋人がいきなりDV男になってしまっても、変らずに愛し続けられるものなのだろうかと思ってしまう。まあ酒を飲むと暴力をふるう夫に対して「本当は優しい人」とかいうのは、DVに耐える妻の台詞の定番だけども…。
でも透の不安定さを見ていると、見捨てられない気持ちがよく分かってくる。藤島が辛抱強くそばにいてくれてよかった。いい話だと思う。
ただやっぱりホワイトの透の記憶が戻らなかったのが切ない。
私がブラックと呼んでいるほうが本来の透なんだけど、作品に最初に出てきたのはホワイトのほうで、2冊にわたって付き合って、すっかりキャラへの愛着がわいていたので、急に主役が交代してしまったような寂しさがある。同じ人間だと分かっていても、思い出って大事というか。藤島を精一杯愛して、将来の目標のために頑張っていた6年間の彼が死んでしまったように感じてしまう。しかも藤島が最後に1枚だけ残っていた写真まで焼いてしまうので、全否定されたようで悲しい。現在の透の気持ちを守るために必要だったし、藤島がそうしてくれてよかったとも思うんだけど、悲しいものは悲しい。ブラックの透のほうも6年間に対しては自分とは別物としているようなところがあるし、そうなると本当に存在を殺されてしまったようで。ブラック透がホワイトに自分の人生を乗っ取られてしまったと感じる場面があったけど、それと同じことが立場を逆にして起こっているように感じてしまう。
彼だって確かに頑張って生きていたのにね。あんなに藤島を愛してたのにね…。
現在の透が一生6年分の記憶を思い出せないとしても、「こんなことがあったんだよ」って藤島が思い出を語れるようになってくれればいいのになあと思う。過去は捨てるんじゃなくて、乗り越えて欲しいと思ってしまう。
実はDVよりこの喪失感が辛くて、読み返すのが辛かったのだが、やっぱり今回も切なくなった。
それはそれとして、藤島と透、そして同窓会カップルが幸せになってくれて嬉しい。
分厚いし、読み始めるまで気が重かった3巻だが、読み出すと止まらなかった。
あれ、こんなに短い話だったっけ?
シリーズ全部に対して激しくネタバレ。
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ブラック透が目覚めるところから始まる3巻。1巻に引き続きまたしても記憶のない不安に駆られるので、読んでるこっちも一緒に不安になってしまうし、先の展開が見えないから最初に読んだときは長く感じたのかもしれない。
ホワイトの透(記憶をなくしていた6年間の透)が好きだから、初めて読んだときは本当に衝撃だった。3巻が終わるまでずっと、いつか空白になってしまった6年分の記憶も戻って、全部通しで記憶が繋がるようになるんじゃないかと思っていたのだが……。2度目の今回はそうならないと分かっているので、期待をしないですむという意味では楽だったかな。
2巻であれほど甘ったるい関係だったふたりだが、透がブラックに戻ってしまい、さらに6年間の関係がバレてしまい、DVが続き…。なんかあらすじとしては簡単だけど、DVの描写が本当に痛そうで、痛い系木原作品のひとつの到達点、とまで思っていた。
けど冷静な目で(最初の衝撃がすっかり冷めてから)読み返してみると、痛さより悲しさのほうが大きい。暴力をふるう透は、子供のころ藤島にいたずらされたことと、偶然続いてしまった藤島の母親の折檻を「藤島の裏切り」として1つに結び付けて考えていて、しかも怖い記憶としてトラウマになっている。そして藤島と同じように透も孤独な人生で……。なんとなく最初に読んだときは透に同情できずにいたんだけど、今回は透にも同情できたので、暴力シーンが余計に悲しかった。
ブラック透は口下手で乱暴でホワイトのほうとは本当に別人みたいなんだけど、やっぱり同じ人だと分かる。根は優しい。記憶が戻ったと知らずに声をかけてくる商店街の人を無視したりしないし、ポートを見ると藤島にケーキを買ってやりたいと考えたりもする。それに夢のために努力を惜しまないところなんかも変ってない。
でも自分の弱さと厳しい状況と孤独に追い詰められてしまい、藤島に歪んだ執着を持ってしまう。恨むだけの理由も確かにあるわけだけど、たぶん憎むという形でしか、接することができないだけで…。
どれだけ透に殴られ、蹴られ、関係を強要されても、藤島は逃げ出さない。弱い人間だけど、ここにきて強くなったなあと思う。もちろん透への負い目と愛情がそうさせるんだろうけど、優しかった恋人がいきなりDV男になってしまっても、変らずに愛し続けられるものなのだろうかと思ってしまう。まあ酒を飲むと暴力をふるう夫に対して「本当は優しい人」とかいうのは、DVに耐える妻の台詞の定番だけども…。
でも透の不安定さを見ていると、見捨てられない気持ちがよく分かってくる。藤島が辛抱強くそばにいてくれてよかった。いい話だと思う。
ただやっぱりホワイトの透の記憶が戻らなかったのが切ない。
私がブラックと呼んでいるほうが本来の透なんだけど、作品に最初に出てきたのはホワイトのほうで、2冊にわたって付き合って、すっかりキャラへの愛着がわいていたので、急に主役が交代してしまったような寂しさがある。同じ人間だと分かっていても、思い出って大事というか。藤島を精一杯愛して、将来の目標のために頑張っていた6年間の彼が死んでしまったように感じてしまう。しかも藤島が最後に1枚だけ残っていた写真まで焼いてしまうので、全否定されたようで悲しい。現在の透の気持ちを守るために必要だったし、藤島がそうしてくれてよかったとも思うんだけど、悲しいものは悲しい。ブラックの透のほうも6年間に対しては自分とは別物としているようなところがあるし、そうなると本当に存在を殺されてしまったようで。ブラック透がホワイトに自分の人生を乗っ取られてしまったと感じる場面があったけど、それと同じことが立場を逆にして起こっているように感じてしまう。
彼だって確かに頑張って生きていたのにね。あんなに藤島を愛してたのにね…。
現在の透が一生6年分の記憶を思い出せないとしても、「こんなことがあったんだよ」って藤島が思い出を語れるようになってくれればいいのになあと思う。過去は捨てるんじゃなくて、乗り越えて欲しいと思ってしまう。
実はDVよりこの喪失感が辛くて、読み返すのが辛かったのだが、やっぱり今回も切なくなった。
それはそれとして、藤島と透、そして同窓会カップルが幸せになってくれて嬉しい。
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