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2009年8月27日 木原音瀬
オークラ出版 2003/05

木原作品といえば、痛い系。
その中でもこれはとくに痛い作品だと思う。
私は痛い系の木原作品が好きだが、これだけは苦手……。
でも、読み返したくなってしまい、不本意ながらボッタクリ値段で買ってしまった……。敗北感でいっぱいだ。

ネタバレ
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HOME1
いい具合に?話を忘れかけていたので、ああ、そうそうこういう話だったよ、とのんびり読み始めたのだが、最初から直己が苦手。立原の「好きなら何をしてもいいのか」という台詞に大きく頷きたい。そして篤の優しさとセットになった自分勝手さに、さすが木原作品と唸ってしまう。人間の弱さ、醜さをしっかり描いてあるところがいい。駄目な部分まで含めて、共感できる。
行くところまで行ってしまった後で一応は前向きに終わる、この1の結末には安心するものの、やっぱり直己が許せないまま終わってしまう。確かに同情すべき生い立ちだとは思うし、誰にも愛情を注がれなければ歪んでしまうのも分かるんだけど、何一つ努力をせずに愛してほしいとだけ願うのもひどいもので……。大学生にもなってすべての責任を周囲に押し付けることなんてできないし、もっと考えないといけない。立原や篤の母親の意見は酷ではあるけど、篤が直己を育てる責任はないっていうのは事実…。直己が「当時25歳の篤が引き取るのをためらった理由は成長して分かるようになった」という意味のことを言ってたけど、言動を見る限り、結局何も分かってないんじゃないかと……。
愛されなかったって恨むばかりで、育ててもらったことに恩は感じてないみたいだし。この子がもう少し努力していれば許せたかもしれないけど、あまりにも努力が見られないのでうんざりしてくる。篤の弱さを許せるのとは対照的かもしれない。
そのせいもあって、篤が直己を好きになった理由にイマイチ共感できなかった。
直己の弱さや歪みをかわいそうなものとして許せれば、好きな作品だったかもしれない。

HOME2
暗い……。
1のラストでふたりの関係に少し歩み寄りがあったのかと思っていたが、「ふりだしに戻る」どころか、マイナススタート。
直己は執着系の癖に相手の存在を無視するかのような態度を取り続け、優しくすれば怒り出すが、八つ当たりもそれだけ。でも捨てられるのを恐れてるし、放っておけば食事もしないという前科があるだけに…。怪我には同情するけど、なんだかなあという気分になってくる。もっとこう…ワガママをいうような八つ当たりの仕方なら、対処のしようもあるし同情もしやすかったかもしれない。篤は受け止められたと思う…。
それでも篤の気持ちが変わらないことに、むしろびっくりする。
うーん、人を好きになるってどういう感情なんだろうとか、考えさせられる。篤にとって直己ってどういう存在なんだろう。…どうも篤の愛情は分かりづらいので、そんな基本の部分から考えたくなってしまう。
もし直己がいなければ、篤は普通に結婚して、穏やかでわりと幸せな生活を送ったんだろなーという気がする。伊沢のことを引きずって結婚相手に本気になれないのは、あんまり幸福ではなさそうだけど…。だから直己のことを好きなったのは、篤にとっていいことだったんだと思う。
ただ、篤を変えたのが他の相手だったらもっと幸せだったに違いないとも思ってしまう……。
ふたりの生活に、とにかくずっと希望が見えてこないので、この重苦しさがある意味DVよりも痛い。二度目だったので、まだ少し読みやすかったけど、最初は本当に長く感じて、なんでもいいから動きがほしいと思ってしまった。
自分が伊沢の身代わりだったと知ってしまった直己は気の毒だったし、篤の接し方に問題があったのは確かだけど、これは責められるばかりのことなのかなーとモヤモヤしていたら、密林であらすじを読んでスッキリした。「忘れ形見」って書いてあった。身代わりっていうとひどい気がするけど、好きだった人の遺児を育てると考えれば、悪いことではないような気がする。
…まあ要するに感情移入している主人公なので、ちょっと庇いたくなったわけだが。
けど結局は、引き取ったのに愛情を持って育てなかったんだから、「身代わり」って言われても仕方ないのか……っていうところに行き着いてしまう。
主人公を擁護することもできない、この徹底的な痛さは素晴らしいと思う。
まあでも「自分が悪かった」だけでは前に進まないし、とりあえず甘やかすのはやめて自立させてみたらいいのに…と思っているうちに、直己が自分から出て行き、篤は寂しさからアル中になってしまう。これもすごく痛い展開…。酒に逃げるだけで何もしない弱さが辛い。
さらに痛いのが、このまま別れたほうが、このふたりは幸せになれるんじゃないかと思ってしまうところ。篤が同僚の女性と付き合っても心が動かなかったことに、やるせなさを感じてしまった。恋愛小説なんだから普通なら切なく感じる場面なのに、ああ、やっぱり他の人じゃ駄目だったかってガックリきた。なんでこう救いがないんだか……。
そしてラストに直己の衝撃の行動。痛い、痛いと思っていたら、最後に止めを刺されちゃいました~。うう……。
篤が強くなろうとしている点だけが救いだろうか。篤はどうにも頼りないので、本当に直己を変えてあげることができるのかなー、と不安を残しつつ終わる。ふたりとも弱いってところが厳しい。
立原が言っていた「お前と直己は合わない」という言葉を否定できるだけの材料が、結局最後まで見えてこなかった…。
ここまできたら、なにがなんでも直己を幸せにしてやってほしいけど、…そこまで辿り着くのが難しそうなふたりだ。

最後の一行が効いている……。
は~、やっぱり再読もきつかった。
たぶん、この作品に続編があったら甘い話になるはず。だって苦痛の後に思い切り甘くなるのが木原作品でしょ。って勝手に思っておくことにする。

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