絢谷りつこ 新書館 2009/10

雑誌で読んで、文庫化を待ってた作品。

ネタバレ
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気にならない程度の癖しかないから、わりと文章が読みやすくて好きな作家さん。
前作もそうだったけど、ゴテゴテ飾り立てない文章で趣を出すのが上手いと思う。雰囲気が好き。
こういう雰囲気が自分の趣味に合っているからという理由で好きな作家さんの作品は、正直ストーリーの出来とか、他の人が読んで単純に面白いのかどうかとか、そういう客観的な評価ができない。萌えみたいなもので、あくまで個人的な感覚になっちゃう。
そんなわけで私は面白かったし、好きだけど、人には薦められない作家さん。たまにこういう作家さんがいるんだよなー。

タイトル。
本のタイトルも「君と、夢のあとに」でいいのになーと私は思うんだけども。
作家さんの希望じゃなく、「それじゃー売れねーよ」っていう理由でつけられたんだったら残念だなあとか、憶測で色々考えてしまった。
やー、なんか最近、愛だ恋だっていうタイトルが増えてる気がするから、もしかして…って。…なんかBLの編集者って「これが売れる」っていう思い込みで、似たような(流行の)タイトルをつけさせたがる傾向が強い気がするし。そりゃ本が売れなければ意味ないんだろうけど、タイトルというパッケージを画一化して、中身はテンプレで…。創作なんだから個性を大事にしませんか?とか、ついつい。

中身。
出会いから再会までずいぶん遠回りしたふたりだが、再会後もお互い忙しいせいもあってあんまり会えない。結構焦らされた。でも、このじっくりペースがいいのかな。
ピアノ曲を聴く場面がとくに好き。そのほかの場面でも、とにかく静かでゆったりした雰囲気なのがいい。場所は現代日本だけど、ピアニストという職業柄か?一史も曾我も忙しいのに、なんかこうどこか空気が違うっていうか。これが好きっていうのは、一史(作者)の目を通してみる世界が好きってことなんだと思う。
そんなわけで、わりとストーリーはどうでもよかった…っていうと言い方が悪いか。たとえストーリーが趣味に合わなかったり退屈だったりしても気にならなかったはず。
でもストーリーもよかった。一史の不器用さと曾我の包容力が甘くて切ない。
一史はもうちょっとちゃんと謝ったほうがいいと思うけど。って思ってたら、最後のほうに、ぎこちなく一生懸命謝っていたのが可愛かった。ほんと口下手って感じが出てた。
甘い部分もしっかりあって、満足~。
あと曾我がピアノを続けてくれて、よかったなあと。いつか共演できるといいんだけど。

当て馬?の恩田。相手にならなすぎだから、当て馬にもなってないんだけど。一言で表現すれば、性犯罪者……。「好きなんだもーん、本気なんだもーん」っていう理由でも、これが攻であればBL界では純愛とされ、許されるんだろうなと思う。
まあでも今回はちゃんと最後まで犯罪者として扱われていたわけだが、こいつは途中で曾我の才能を認め、一史の想いを理解して、一史のことをすっぱり諦める。
なんか粘着系のわりに、あっさり引き下がったなあ。…まあそれはいいとして、恩田は失恋以外になんら痛手をこうむっていない。せいぜい1回殴られたぐらい。納得いかないだろう、これ。
でも、例えば恩田を法的に、あるいは社会的に罰するとすれば、必ず一史自身も傷つくことになる。だからこそ、姉や曾我も何もできなかったんだと思う。必ずしも正面から向かい合うことだけが、問題の解決法でもない。心の傷の場合、時間しか癒せないということもある。曖昧なままにするのも、1つの対処だと思う。
それはわかっているけど、せめて一史が恩田を厳しく責め、恩田が罪を認めて、きちんと謝罪するシーンがほしかった。
犯罪を扱う以上、一史の個人的な問題だけですまない。社会的な側面があるわけで。…反省のない犯罪者を野放しにするってマズイでしょ。

引っかかる部分もあったが、全体的に甘さと切なさのバランスもよく、主役ふたりのキャラにも魅力があって、私は結構趣味に合ったし、好きな作品。

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