あの日にドライブ

2009年10月23日 読書
荻原浩 光文社 2009/04

初読みの作家さん。
疲れた気分だったので、表紙とタイトルに惹かれて購入。
疲れているときって、めまぐるしい展開で飽きさせない、テンポのいい話か、逆に何の事件も起こらないような静かなものを読みたくなるのだが、今回は後者の気分だったようで。

ネタバレ
牧村伸郎、43歳。元銀行員にして現在、タクシー運転手。あるきっかけで銀行を辞めてしまった伸郎は、仕方なくタクシー運転手になるが、営業成績は上がらず、希望する転職もままならない。そんな折り、偶然、青春を過ごした街を通りかかる。もう一度、人生をやり直すことができたら。伸郎は自分が送るはずだった、もう一つの人生に思いを巡らせ始めるのだが…。


前半は世の中の厳しさがひしひしと伝わってくる内容なのに、読みづらさは感じなかった。適度にユーモアがあって、「負けっぱなし」という感じなのに、悲壮感がない。
感情移入しやすい話だった。たぶん主人公の年齢に近い読者なら、頷けるところが多いと思う。牧村が学生の頃住んでいたアパートの部屋で横になって目を閉じ、目を開けたら大学生に戻っているんじゃないかなんて妄想してしまうのは、(口に出して「タイム・スリップ!」とか言うし、)笑っちゃうけど、気持ちはよく分かる。
牧村は次々と「人生の分岐点」を思い出し、そのたびに「あのときこうしていれば、今頃はきっと」と妄想する。その中から1つぐらい過去の夢を実現するのかなと思っていたが、とくにそういうことはない。でも現実の世界では、ちょっとした工夫といっぱいの努力でタクシー運転手のノルマを達成できるようになったり、妻子と会話を持てるようになったり、小さな成功や幸せを手に入れていく。
クライマックスまで行っても、大きな変化はない。でも、日々のささやかな幸せを感じ取れるようになり、当座の生活費稼ぎだった仕事にもやりがいのようなものを見出していくのは、ほっとできるラストだった。
大成功はしてないし人に自慢できるものでもないけど、自分は結構幸せだ。そんな風に思える1冊だった。

けど、タクシーに乗りづらくなっちゃったな。私は近距離でしかタクシー使わないから、ハズレの客だよね、なんか悪いなー…とか考えてしまった(笑)

この作品とは関係ないが、本を刊行するにあたっての挨拶文みたいなもの。最近できたレーベルやラノベだとないけど、あれは個人的にはつけたほうがいいと思う。
なんかやっぱり本はビジネスライクに作ってほしくないっていう思いがあるので、あれを読むと思いを込めて世に送り出した1冊なんだなって感じられていい。毎回同じ文章なんだけど、気分的に…。

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