夜をわたる月の船

木原音瀬　蒼竜社　2009/11/20

久しぶりの新刊だし、イラストは日高さんだし、と期待していた１冊。
２段組なのはいいとして、フォントが小さくて驚いた…。本の厚みも普通にあるし、かなりの文章量なんじゃないかと。

ネタバレ
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やっぱり日高さんのイラストは好きだな～。とくに口絵と後半のイラストがよかった。口絵の背景はもうちょっとＣＧっぽさがないといいと思うけど、日高さんっぽさが出てて好き。

元部下×元上司、年の差。
強要されたってあらすじをみて、主人公（部下）が受かと思っていたが…。私の趣味としては、年下攻のほうが好きだし、こっちのほうがいいんだけど。まあどっちにしても強要はどうかと思うが。
そのあと河瀬（攻）が柴岡を恨むとか、殴った弾みで交通事故とか、木原作品らしい展開が続く。これでさらに泥沼か？と思ったが、柴岡は当初の予定通り北海道に栄転していき、数年後に再会。このへん結構流れが読めなかったかな…。
有能でかっこいい上司だった柴岡は、外身は有能で親切なままだけど、無気力になっていて家を片付けられなかったり、おかしな言動が目立ち始める。
この柴岡のキャラがこの話の肝なんだけど、有能な顔をしているときは皮肉屋で嘘吐きで、しかもモラルもない。平気で人の気持ちを踏みにじる。一皮剥けば、無気力でだらしなく、自殺志願。河瀬にだけＳＯＳを出すのだが、まったく可愛げもなければ感謝もなく、かわいそうでもない。ただただ迷惑な人で、まったく魅力を感じなかった。
うーん、普通は有能で皮肉屋、ほんとは精神的に弱くて寂しがり屋、みたいな設定なら好きなんだけど、柴岡はなあ…。迷惑な人でも同情できれば、それなりに好きになれるだろうが、苦しみや足掻きが伝わってこないので、引いてしまって終了というか。
今回は木原マジックもなく、話自体には引き込まれて一気に読んだけど、河瀬が柴岡に惹かれた気持ちが理解できなかった。木原作品では、「なんで好きなの？」は分からないことも多いが、河瀬が柴岡にのめり込む理由って体以外に何かあるの？と思ってしまった……。
河瀬は頑張っていたけど、どうにも感情移入できなかった。ラストもスッキリしないし、恋愛ものとしても、あらすじに書いてあった「ヒューマンストーリー」としても面白くなかった。
ただこれは、柴岡が分かりやすく救われなかったことや、二人の愛情がしっかり確認できなかったこと、中途半端で先の見えない終わり方が悪いわけじゃない。普段はこれでも感動かカタルシスが得られるか、あるいは呆然とする…。
なんか今回はそこまでのパワーがなかったかなと。
柴岡が奇矯なばかりで、魅力を感じなかったのもそこに原因があると思う…。
ただ、もう一回読んでみようかなとは思う。この内容で最後まで一気に読ませるのはやっぱりすごい。何か読ませるだけの魅力があったわけだし、読み込んだらまた印象が違うかもしれない。

これだけは言いたいが、いくらオヤジ受が好きでも、裸族で口をきかない、セックスにしか興味がないオッサンには色気を感じません…。こんな動物的なオッサンにその気になれる河瀬の趣味が分からない……。