楽園

2010年3月31日 読書
宮部みゆき 文藝春秋 2010/02

や~、面白かった。
分厚い文庫上下巻なので、しばらく積んでしまったが、読み始めたら早かった。


ネタバレ
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『模倣犯』の前畑滋子が主人公ということで読み始めたのだが、スピンオフじゃなくても楽しめたと思う。ただ、あの事件を引きずっている主人公だからこそ、時効の成立した事件に対して熱心に、そして慎重に向き合えたのではないかと思う。
推理よりも社会派の話として面白かったかな。超能力が出てくるけど、それで事件(人間)の怖さや情の描写にリアリティーが失われるということもなく、最後まで事件に関わる人々の思いを丁寧に描いていて楽しめた。
家族についても考えさせられる作品。

文庫の解説もよかったなあと。「この話で、なんで超能力を出すの?」という読者の引っかかりに対しての解説も用意されていて、『模倣犯』との繋がり方なんかにも触れてあり、読者が読みたいと思うような内容だった。いい感じに作品の余韻に浸ることができた。
…小説の解説って、ひどい人になると作品のことにはほとんど触れず、文学の薀蓄だけで終わったりするので。

宮部みゆきは超能力ものと社会派作品と両方書くけど、この話はどっちに行くのかな?というのも、作品を読み進めていく上での楽しみだった。
恐ろしいことに、どちらでもあった。幽霊とか超能力なんて出てきた時点で、ジャンルが違ってしまうものだけど、この作品では両立してしまっている。そこもすごいと思った。
超能力を否定して「偶然の一致」と片付けたとしても、驚くような偶然に遭遇したとき、その偶然に意味を見出したくなるのが一般的な反応じゃないかと思う。たとえば、昨日見た夢が「正夢になった」とかいうとき、科学的に夢と現実の一致の理由を解明することなんてできないわけで、偶然の一致ということで落ち着くと思う。でもその偶然を驚いたり、人に話したくなる人のほうが多い。実際にそういう偶然は起こるわけだから、超能力を出すこと=リアリティーの欠如とはならない。そういう低い確率での偶然が実際に起こることと、偶然に遭遇したときの驚きを無視することのほうが非現実的じゃないかと。この作品は、偶然に接したときの人々反応や超能力の検証を突き詰めて書いた作品としても楽しめた。
話の結論としては超能力の存在を認めているのだが、だからといって「これは社会派ではない」と切り捨てられないような書き方をしているところに感心した。

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