イノセンス―幼馴染み
2010年5月19日 砂原糖子
砂原糖子 幻冬舎コミックス 2010/5
これは2005/2にオークラから出た単行本の復刊。…アイス、ほんといいレーベルだったな。
砂原作品の「殿堂」を考えたときに、『優しいプライド』とこの作品がほぼ同時に思い浮かんだ。けど、この作品のほうは本が手元になかったし、なにより書くのが難しくて、「下書き」を残しただけでなかなか感想を書けずにいた。
ぐずぐずしているうちに文庫が出たので、この機会に勢いをつけて書いてしまおうかと。
ネタバレ
------------------------------------------------
なんで感想が難しいかというと、主人公の睦が特殊学級に行くほどではないけど、知能が遅れているから。
この説明だけでも、「差別的になっていないだろうか」、「表現として適切だろうか」、「偏見が入っていないだろうか」と考えてしまうので、長々感想を書くとなると難しい。あるいは「難しい」と云ってしまうことさえ、誰かを傷つけることになってしまうのではないかと心配になる。
そんなわけで、小説、しかもBLというラノベのジャンルで扱うのは相当難しいテーマだと思う。これを逃げずに、丁寧に、気を遣いつつ、真摯に書き上げた砂原先生はすごい。
もしかしたら、書き方に問題(差別的で不適切な表現、偏見等)もあるのかもしれないけど、上にも書いたように「この問題をBLで扱うのはどうか」と避ける考え方自体が差別に繋がることもあるので、まず書こうと思った姿勢だけでも評価されるところなんじゃないかと思う。
しかも決して、特別視するような書き方じゃなかったし、睦の目を通して差別っていうのがどういうものなのか分かりやすく書いている。これでダメっていうならこのテーマは不可侵、書くだけでタブーってことになりそうだと個人的には感じたが…。
…とても暖かくてBLとしても楽しい作品なんだけど、どうしても堅苦しい前置きが必要になってしまう。
読んでいて、やっぱりちょっと痛い場面もある。睦が「触らないで」と言われて、手を洗い続けるシーンとか、強烈で忘れがたい。でも来栖と、家族や友人の愛情が読者の気持ちまでしっかりフォローしてくれるし、辛いからこそ人の気持ちの暖かさにじんわりするというか。
睦は一途でいじらしいので、感情移入しやすいし、素直に応援したくなるキャラ。攻の来栖はちょっと不器用だけど、やっぱり優しくて…、睦から逃げてしまう。しかも再会まで8年間という思い切った(?)ブランクが空くのだが、来栖からの手紙も途絶え、連絡もない状態で、睦は来栖を追いかけて上京する。うーん、すごい一途だ。
じゃあ来栖がひどい人なのかというと、そうでもない。いつまでも子供みたいな睦と恋愛するのって、常に罪悪感がつきまとうものだろうと想像つくし。実際には同い年でも、大人が小中学生を好きになってしまうような感覚なんだろうと思う。せがまれてキスはしたけど…その先のことまで考えたら、18歳の来栖が逃げ出したくなるのも当然かもしれない。
最初に読んだとき、「何も分かっていなそうな睦に手を出していいものなのかどうか」というようなことを考えさせられた。…でも、相思相愛の相手が手を出しちゃいけないなら、睦は大人なのに誰ともセックスしちゃいけないって言うようなもので。だとしたら悩むところは同性同士だってことぐらいだろうし。(…BL読者にとっては考える必要のない問題)
と、来栖が再会後にすぐに思い切れるわけもなかったが、大事にしたいがゆえの葛藤がよかったし、ハードルを乗り越えてのハッピーエンドは感動的だった。
そして睦が来栖を「純粋」と表現するところに、この作品のよさがあると思った。睦の台詞に「確かにそうだなー」と頷けるところがいいというか。来栖の睦に対する言動は自分勝手だったんだけど、逃げてしまったことには共感できるし、来栖は来栖ですごく一途。睦のことを忘れたいと思いながらも、8年間大事に、睦にもらった「願い事をかなえる券」を持っていたなんて…やっぱり純粋な人なんだろうなあと。まあそのことだけじゃなく、睦に対する優しさを見ていてそう感じた。
睦も一緒にいて癒されるような純粋性を持っている。
当て馬として(?)来栖の婚約者が出てくるのだが、この女性は優しそうに見えて睦を馬鹿にしていたり、選挙に利用しようとしたりする。読者に嫌われるタイプのキャラ。でも睦は彼女のことを理解したうえで優しい人だと感じる場面がある。人の悪意を見抜けないとか、睦自身がお人好しキャラだからではなく、きちんと理由があり、暖かい目線で彼女を見た結果として優しい人だと思うところがよかった。…障害があるから、天使みたいに悪意がないキャラって描き方じゃないからこそ、睦の優しさに癒されるというか。
そしてそういう睦の優しさに一番救われてるのは来栖で……、そんな二人だから幸せになってほしいと思う。
これは2005/2にオークラから出た単行本の復刊。…アイス、ほんといいレーベルだったな。
砂原作品の「殿堂」を考えたときに、『優しいプライド』とこの作品がほぼ同時に思い浮かんだ。けど、この作品のほうは本が手元になかったし、なにより書くのが難しくて、「下書き」を残しただけでなかなか感想を書けずにいた。
ぐずぐずしているうちに文庫が出たので、この機会に勢いをつけて書いてしまおうかと。
ネタバレ
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なんで感想が難しいかというと、主人公の睦が特殊学級に行くほどではないけど、知能が遅れているから。
この説明だけでも、「差別的になっていないだろうか」、「表現として適切だろうか」、「偏見が入っていないだろうか」と考えてしまうので、長々感想を書くとなると難しい。あるいは「難しい」と云ってしまうことさえ、誰かを傷つけることになってしまうのではないかと心配になる。
そんなわけで、小説、しかもBLというラノベのジャンルで扱うのは相当難しいテーマだと思う。これを逃げずに、丁寧に、気を遣いつつ、真摯に書き上げた砂原先生はすごい。
もしかしたら、書き方に問題(差別的で不適切な表現、偏見等)もあるのかもしれないけど、上にも書いたように「この問題をBLで扱うのはどうか」と避ける考え方自体が差別に繋がることもあるので、まず書こうと思った姿勢だけでも評価されるところなんじゃないかと思う。
しかも決して、特別視するような書き方じゃなかったし、睦の目を通して差別っていうのがどういうものなのか分かりやすく書いている。これでダメっていうならこのテーマは不可侵、書くだけでタブーってことになりそうだと個人的には感じたが…。
…とても暖かくてBLとしても楽しい作品なんだけど、どうしても堅苦しい前置きが必要になってしまう。
読んでいて、やっぱりちょっと痛い場面もある。睦が「触らないで」と言われて、手を洗い続けるシーンとか、強烈で忘れがたい。でも来栖と、家族や友人の愛情が読者の気持ちまでしっかりフォローしてくれるし、辛いからこそ人の気持ちの暖かさにじんわりするというか。
睦は一途でいじらしいので、感情移入しやすいし、素直に応援したくなるキャラ。攻の来栖はちょっと不器用だけど、やっぱり優しくて…、睦から逃げてしまう。しかも再会まで8年間という思い切った(?)ブランクが空くのだが、来栖からの手紙も途絶え、連絡もない状態で、睦は来栖を追いかけて上京する。うーん、すごい一途だ。
じゃあ来栖がひどい人なのかというと、そうでもない。いつまでも子供みたいな睦と恋愛するのって、常に罪悪感がつきまとうものだろうと想像つくし。実際には同い年でも、大人が小中学生を好きになってしまうような感覚なんだろうと思う。せがまれてキスはしたけど…その先のことまで考えたら、18歳の来栖が逃げ出したくなるのも当然かもしれない。
最初に読んだとき、「何も分かっていなそうな睦に手を出していいものなのかどうか」というようなことを考えさせられた。…でも、相思相愛の相手が手を出しちゃいけないなら、睦は大人なのに誰ともセックスしちゃいけないって言うようなもので。だとしたら悩むところは同性同士だってことぐらいだろうし。(…BL読者にとっては考える必要のない問題)
と、来栖が再会後にすぐに思い切れるわけもなかったが、大事にしたいがゆえの葛藤がよかったし、ハードルを乗り越えてのハッピーエンドは感動的だった。
そして睦が来栖を「純粋」と表現するところに、この作品のよさがあると思った。睦の台詞に「確かにそうだなー」と頷けるところがいいというか。来栖の睦に対する言動は自分勝手だったんだけど、逃げてしまったことには共感できるし、来栖は来栖ですごく一途。睦のことを忘れたいと思いながらも、8年間大事に、睦にもらった「願い事をかなえる券」を持っていたなんて…やっぱり純粋な人なんだろうなあと。まあそのことだけじゃなく、睦に対する優しさを見ていてそう感じた。
睦も一緒にいて癒されるような純粋性を持っている。
当て馬として(?)来栖の婚約者が出てくるのだが、この女性は優しそうに見えて睦を馬鹿にしていたり、選挙に利用しようとしたりする。読者に嫌われるタイプのキャラ。でも睦は彼女のことを理解したうえで優しい人だと感じる場面がある。人の悪意を見抜けないとか、睦自身がお人好しキャラだからではなく、きちんと理由があり、暖かい目線で彼女を見た結果として優しい人だと思うところがよかった。…障害があるから、天使みたいに悪意がないキャラって描き方じゃないからこそ、睦の優しさに癒されるというか。
そしてそういう睦の優しさに一番救われてるのは来栖で……、そんな二人だから幸せになってほしいと思う。
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