欲望と純潔のオマージュ
2010年10月8日 BL作家か行
華藤えれな フロンティアワークス 2009/08
ダリア文庫って(私が読むのは)珍しいなあ。
華藤さんは初めて読む作家さん。
よく書店や雑誌で見かけるお名前なので、なんか初めてって気がしないんだけど、たぶん初めて。
外国ものが得意な作家さんというイメージ。
ネタバレ
彫刻家×大学職員、年下攻。
プラハが舞台のBLってこれ1冊なんじゃないかと。
チェコという国にまったく馴染みのない私は、チェコが舞台、ドイツで脳外科の手術というキーワードで、『MONSTER』(漫画)みたいだな~と思ってしまった。まあそんな個人的な事情はともかく…。
面白かった。
文章は台詞も地の文も説明的(いうなれば、ガイドブックをそのまま引用しているような調子)で気になったけど、だんだん読みやすくなった。ストーリーも、海外舞台、彫刻家、病気ときて、なんだか大仰そうだなと思ってたんだけど、わりと内容は地味で入り込みやすかったし。
蒼史がプラハに行くところから始まり、二人の過去は少しずつ明かされる。はじめのほうに分かっている事実だけ見ていると、なんで蒼史がカレルに事情を説明しようとしないのか、よく分からなかった。というか、ちょっとウジウジしたところのある性格のせいだと思い込んでた……。プラハについていくと約束しながら、行けなくなったことも、お母さんが病気だからってきちんと説明すればここまでカレルを傷つけずにすんだはずなのにって。
再会後も、蒼史に裏切られたことで傷つき、「復讐する」とまで言ってるカレルに何の説明もなく、「償いたい」とだけしか言わず、ただ言いなりになる蒼史の行動が分からなかった。病気のことを隠しているのはいいとして、償いたいなら説明したほうがいいんじゃないの?と、ちょっとイライラした。
カレルにしても、いくら事情を知らない上に若くて世間知らずといっても、蒼史に遊ばれたみたいな解釈は、物事が見えなさ過ぎというか、鈍すぎるというか…ってあきれてしまっていたんだけど。
「ある事件」(あらすじに書いてあるやつ)が明らかになると、蒼史の決断にすごく納得がいく。あー、なるほど、これは話せないな、と。
芸術家としてもこれからっていう若い恋人に、自分の側の事情を背負わせるわけにはいかないだろうなあと…。お母さんがカレルに危害を加えるかもしれないっていう危険は、注意していれば防げるだろうし、事情を説明して別れるという選択肢もあるにはあるけど、そんな重たい事情を話すこと自体がカレルにとって重荷になってしまう。事情を説明した上で別れるんじゃ、心情的にはなんだかカレルが蒼史を捨てるみたいになってしまうし。この話のなかではお母さんは数年後に病死するんだけど、この先何十年も状況が変らない可能性が高かったわけで、蒼史のほうから「二人の愛の力で乗り越えましょう」とは、普通は言い出せない…。
すべてが判明した後に「なんで話してくれなかったんだ」と理由は訊くけど、責めたりしないで「知らなかったとはいえ、ひどいことをして悪かった」と謝るカレルもいい。自分でも言ってるけど(笑)、器が大きいよなあ。
蒼史も気が弱くて、家庭の事情に流されているだけの薄幸なタイプに見えて、実は芯が強いし、カレルの芸術の理解者でもあるというところが魅力的だった。
京都、プラハ、閉ざされたアトリエの世界と、舞台設定も美しいし、心情の流れもつかみやすくて、面白い話だった。途中、何度か涙ぐんでしまうシーンもあったし。
これがJUNEなら、主人公は儚く死んでしまい、残されたカレルは彼の姿を孤独に作り続けるところなんだろうけど、BLなので手術も無事成功。後味もよかった。
ダリア文庫って(私が読むのは)珍しいなあ。
華藤さんは初めて読む作家さん。
よく書店や雑誌で見かけるお名前なので、なんか初めてって気がしないんだけど、たぶん初めて。
外国ものが得意な作家さんというイメージ。
ネタバレ
芸術大学の職員・八幡蒼史は著名な陶芸家の母の私生児という境遇から、目立たぬように生きてきた。だが、チェコからの留学生で若き天才彫刻家のカレル・バロシュと恋に落ち、新たな生き方を模索しはじめた蒼史は、カレルとプラハへ行く決心をする。だが、ある事件が起きて…。みずから諦めたはずの恋。しかし病に蝕まれ、先の見えない体になった蒼史は一路プラハへと―。
彫刻家×大学職員、年下攻。
プラハが舞台のBLってこれ1冊なんじゃないかと。
チェコという国にまったく馴染みのない私は、チェコが舞台、ドイツで脳外科の手術というキーワードで、『MONSTER』(漫画)みたいだな~と思ってしまった。まあそんな個人的な事情はともかく…。
面白かった。
文章は台詞も地の文も説明的(いうなれば、ガイドブックをそのまま引用しているような調子)で気になったけど、だんだん読みやすくなった。ストーリーも、海外舞台、彫刻家、病気ときて、なんだか大仰そうだなと思ってたんだけど、わりと内容は地味で入り込みやすかったし。
蒼史がプラハに行くところから始まり、二人の過去は少しずつ明かされる。はじめのほうに分かっている事実だけ見ていると、なんで蒼史がカレルに事情を説明しようとしないのか、よく分からなかった。というか、ちょっとウジウジしたところのある性格のせいだと思い込んでた……。プラハについていくと約束しながら、行けなくなったことも、お母さんが病気だからってきちんと説明すればここまでカレルを傷つけずにすんだはずなのにって。
再会後も、蒼史に裏切られたことで傷つき、「復讐する」とまで言ってるカレルに何の説明もなく、「償いたい」とだけしか言わず、ただ言いなりになる蒼史の行動が分からなかった。病気のことを隠しているのはいいとして、償いたいなら説明したほうがいいんじゃないの?と、ちょっとイライラした。
カレルにしても、いくら事情を知らない上に若くて世間知らずといっても、蒼史に遊ばれたみたいな解釈は、物事が見えなさ過ぎというか、鈍すぎるというか…ってあきれてしまっていたんだけど。
「ある事件」(あらすじに書いてあるやつ)が明らかになると、蒼史の決断にすごく納得がいく。あー、なるほど、これは話せないな、と。
芸術家としてもこれからっていう若い恋人に、自分の側の事情を背負わせるわけにはいかないだろうなあと…。お母さんがカレルに危害を加えるかもしれないっていう危険は、注意していれば防げるだろうし、事情を説明して別れるという選択肢もあるにはあるけど、そんな重たい事情を話すこと自体がカレルにとって重荷になってしまう。事情を説明した上で別れるんじゃ、心情的にはなんだかカレルが蒼史を捨てるみたいになってしまうし。この話のなかではお母さんは数年後に病死するんだけど、この先何十年も状況が変らない可能性が高かったわけで、蒼史のほうから「二人の愛の力で乗り越えましょう」とは、普通は言い出せない…。
すべてが判明した後に「なんで話してくれなかったんだ」と理由は訊くけど、責めたりしないで「知らなかったとはいえ、ひどいことをして悪かった」と謝るカレルもいい。自分でも言ってるけど(笑)、器が大きいよなあ。
蒼史も気が弱くて、家庭の事情に流されているだけの薄幸なタイプに見えて、実は芯が強いし、カレルの芸術の理解者でもあるというところが魅力的だった。
京都、プラハ、閉ざされたアトリエの世界と、舞台設定も美しいし、心情の流れもつかみやすくて、面白い話だった。途中、何度か涙ぐんでしまうシーンもあったし。
これがJUNEなら、主人公は儚く死んでしまい、残されたカレルは彼の姿を孤独に作り続けるところなんだろうけど、BLなので手術も無事成功。後味もよかった。
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