かわい有美子 幻冬舎コミックス 2010/05
タイトルといい、子供っぽいイラストといい、あんまり惹かれるものがなかったけど、お借りしたので読んでみた。
悪魔×神学生、ヴィクトリア朝時代の英国を舞台にしたファンタジー。
どうでもいいが、相変わらずびっくりするぐらい誤字が多いレーベルだな、リンクス。
ちょっと追記あり
かなりネタバレ
-----------------------------------------------
期待以上に面白かった。
ファンタジーであり、かつ海外舞台の時代物でもあるんだけど、まあそんな取っ付きづらいところもないので読みやすい。…これでこの時代の風俗やら神学校の生活について長々描写されたら、早々に放り出していたと思うけど、わりとサクサクと進む。
悪魔のオスカー(攻)が神学生のセシルに目をつけ、退屈凌ぎに誘惑するのだが、セシルはあっさりと落ちてしまう。オスカーにとっても読者にとってもつまらないところだが、ここからが面白かった。セシルは最初からオスカーが本気じゃないことは分かっていて自分も遊びと割り切っていたので、オスカーに本気になったりせず、とくに態度も変らない。ツンデレで初心な神学生と思わせておいて、もう少しサバサバした性格だったというか…。基本的に素直だし真面目な性格で(信仰心はないけど)、べつに意地を張っているわけではなく、単に最初から何も期待していないというのが、なんか説得力があった。高位の悪魔の誘惑も、諦観には負けるらしい。無宗教の私には、「信仰心が守ってくれた」なんていうよりは分かりやすいかも。
宗教観といえば、神学生に化けたオスカーが書いたことになっている「ヨブ記以降の~」という論文は、ああ、悪魔らしい選択かもと思ったのだが、オスカーの過去が明らかになっていくに連れて、もう少し個人的な事情が絡んでいたんだなと思った。まあ細かいことだけど。
神や天使を無慈悲で、必ずしも絶対的な存在として描かないところなんかも読みやすいかも。
テーマが少し似ているから自然と思い出した『ROSE GARDEN』(木原さんのFT)と比べてみる(優劣をつけるって意味ではなく)のも面白いかもしれない。
かわいさんは少し「人間より超越した」存在として天使を描き、天界も真っ白なイメージ。「こういうものだから」とストーリー(言葉)の中では理不尽を受け入れつつ、読者に「それは正しいのか?」という懐疑を抱かせるような書き方っていえばいいのかなあ。
対して木原さんの天使はもっと人間臭く、天界も美しいというだけで地上とそれほど変らないようなイメージだった。でも感覚的に(理屈をすっ飛ばしたようなところが)超越も感じたかもしれない。宗教的な理不尽を、言葉で説明せずに物語に組み込んでしまったようなところがあるというか。まあ木原さんにそんな意図はなさそうだけども、「提示はしたから、あとは自分で考えたら?(考えなくても一向に構いません)」というような書き方。
…長々と脱線してしまった。
オスカーの正体を知ったセシルは、死ぬかもしれないという恐怖より、オスカーの心が自分にないことに落胆して逃げ出す。最初からセシルはオスカーに惹かれていたわけだが、オスカーはセシルの心は手に入っていないと思っている。「好きだけど、信じてはいない」というのは、相手に心を明け渡しているとはいえないってことかな。まあオスカーの悩みは言ってしまえば、本気になった浮気男の悩みみたいな?(笑)
全て捧げると言いながら、心は渡さないセシルにオスカーは毎日バラを届けるようになり、最初は傲慢だったのが嘘のように最後は「共に生きてほしい」と愛を乞うようにまでなる。このあたりのオスカーの気持ちの変化を、くだくだ言葉で説明しないところが、逆に共感しやすくてよかった。
ストーリーに起伏もあってキャラの心情もつかみやすいし、世界観も分かりやすいけど薄っぺらくもなく、思っていた以上に面白かった。
ただ、セシルのキャラにもっと奥行きがあってもよかったんじゃないかと思う。高位の天使の生まれ変わりという大きな背景のあるキャラなんだし、人格的な深みがあってもよかったんじゃないかと。まあ何度生まれ変わっても「心の弱い人間」に生まれ、30まで生きられないという呪いをかけられているので、これがキャラ造詣として正しいんだろうけど。不幸な生い立ちのわりに素直な心を失っていないあたりや、冷静なあたりは魅力的だし。
うーん、でももう少しオスカーへの気持ちが複雑なものになっていれば面白かったと思うなあ。
SS。天界でのストーリーは、完全に時間差恋愛?で切ない。余計なものが入っていないのに、引き込まれるものがあり、上手いと思ったし面白かった。
…しかし、神さまの嫉妬は怖いなあ。ラストの残酷さに驚いた。
後日談。ふたりの新婚生活?が甘くてよかった。甘いだけじゃなく、永遠に近い時を生きる辛さも描かれていて、こちらも面白かった。
少し気になったのは、神の呪いは解けたのだろうか?ということ。(神に許されたのか?、と書くべきかも?)
神がまだセリエルに執着を持っているのなら、この二人は10年後ぐらいに引き裂かれる運命ということになる。前回の再会なんて、お互い再会に気づかないまま終わってしまうという悲劇だっただけに心配というか…。セシルが人間じゃなくなった時点で、心配は無くなったと考えていいのだろうか。
天使も悪魔も数が減っているというあたりに、答えがあるのかな。
タイトルといい、子供っぽいイラストといい、あんまり惹かれるものがなかったけど、お借りしたので読んでみた。
悪魔×神学生、ヴィクトリア朝時代の英国を舞台にしたファンタジー。
どうでもいいが、相変わらずびっくりするぐらい誤字が多いレーベルだな、リンクス。
ちょっと追記あり
かなりネタバレ
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期待以上に面白かった。
ファンタジーであり、かつ海外舞台の時代物でもあるんだけど、まあそんな取っ付きづらいところもないので読みやすい。…これでこの時代の風俗やら神学校の生活について長々描写されたら、早々に放り出していたと思うけど、わりとサクサクと進む。
悪魔のオスカー(攻)が神学生のセシルに目をつけ、退屈凌ぎに誘惑するのだが、セシルはあっさりと落ちてしまう。オスカーにとっても読者にとってもつまらないところだが、ここからが面白かった。セシルは最初からオスカーが本気じゃないことは分かっていて自分も遊びと割り切っていたので、オスカーに本気になったりせず、とくに態度も変らない。ツンデレで初心な神学生と思わせておいて、もう少しサバサバした性格だったというか…。基本的に素直だし真面目な性格で(信仰心はないけど)、べつに意地を張っているわけではなく、単に最初から何も期待していないというのが、なんか説得力があった。高位の悪魔の誘惑も、諦観には負けるらしい。無宗教の私には、「信仰心が守ってくれた」なんていうよりは分かりやすいかも。
宗教観といえば、神学生に化けたオスカーが書いたことになっている「ヨブ記以降の~」という論文は、ああ、悪魔らしい選択かもと思ったのだが、オスカーの過去が明らかになっていくに連れて、もう少し個人的な事情が絡んでいたんだなと思った。まあ細かいことだけど。
神や天使を無慈悲で、必ずしも絶対的な存在として描かないところなんかも読みやすいかも。
テーマが少し似ているから自然と思い出した『ROSE GARDEN』(木原さんのFT)と比べてみる(優劣をつけるって意味ではなく)のも面白いかもしれない。
かわいさんは少し「人間より超越した」存在として天使を描き、天界も真っ白なイメージ。「こういうものだから」とストーリー(言葉)の中では理不尽を受け入れつつ、読者に「それは正しいのか?」という懐疑を抱かせるような書き方っていえばいいのかなあ。
対して木原さんの天使はもっと人間臭く、天界も美しいというだけで地上とそれほど変らないようなイメージだった。でも感覚的に(理屈をすっ飛ばしたようなところが)超越も感じたかもしれない。宗教的な理不尽を、言葉で説明せずに物語に組み込んでしまったようなところがあるというか。まあ木原さんにそんな意図はなさそうだけども、「提示はしたから、あとは自分で考えたら?(考えなくても一向に構いません)」というような書き方。
…長々と脱線してしまった。
オスカーの正体を知ったセシルは、死ぬかもしれないという恐怖より、オスカーの心が自分にないことに落胆して逃げ出す。最初からセシルはオスカーに惹かれていたわけだが、オスカーはセシルの心は手に入っていないと思っている。「好きだけど、信じてはいない」というのは、相手に心を明け渡しているとはいえないってことかな。まあオスカーの悩みは言ってしまえば、本気になった浮気男の悩みみたいな?(笑)
全て捧げると言いながら、心は渡さないセシルにオスカーは毎日バラを届けるようになり、最初は傲慢だったのが嘘のように最後は「共に生きてほしい」と愛を乞うようにまでなる。このあたりのオスカーの気持ちの変化を、くだくだ言葉で説明しないところが、逆に共感しやすくてよかった。
ストーリーに起伏もあってキャラの心情もつかみやすいし、世界観も分かりやすいけど薄っぺらくもなく、思っていた以上に面白かった。
ただ、セシルのキャラにもっと奥行きがあってもよかったんじゃないかと思う。高位の天使の生まれ変わりという大きな背景のあるキャラなんだし、人格的な深みがあってもよかったんじゃないかと。まあ何度生まれ変わっても「心の弱い人間」に生まれ、30まで生きられないという呪いをかけられているので、これがキャラ造詣として正しいんだろうけど。不幸な生い立ちのわりに素直な心を失っていないあたりや、冷静なあたりは魅力的だし。
うーん、でももう少しオスカーへの気持ちが複雑なものになっていれば面白かったと思うなあ。
SS。天界でのストーリーは、完全に時間差恋愛?で切ない。余計なものが入っていないのに、引き込まれるものがあり、上手いと思ったし面白かった。
…しかし、神さまの嫉妬は怖いなあ。ラストの残酷さに驚いた。
後日談。ふたりの新婚生活?が甘くてよかった。甘いだけじゃなく、永遠に近い時を生きる辛さも描かれていて、こちらも面白かった。
少し気になったのは、神の呪いは解けたのだろうか?ということ。(神に許されたのか?、と書くべきかも?)
神がまだセリエルに執着を持っているのなら、この二人は10年後ぐらいに引き裂かれる運命ということになる。前回の再会なんて、お互い再会に気づかないまま終わってしまうという悲劇だっただけに心配というか…。セシルが人間じゃなくなった時点で、心配は無くなったと考えていいのだろうか。
天使も悪魔も数が減っているというあたりに、答えがあるのかな。
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