雨月夜道 白泉社 2010/12

新人さんらしい。
面白かった。

ネタバレ
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いつもの通り、読む前にあらすじは確かめなかった。
よくあるタイトル、編集者と小説家という、ありがちな設定。
正直、なんの期待もなく読み始めた。
数行読んで、「こんな変な奴いねーよ、またトンチキかよ、花○だからしょーがないけど」と呆れたのだが、受の小説家はもとから変人設定だった。あ、変人設定なのね、それは上手いね!と俄然身を入れて読み進めた。
とはいえ、最初は受の宇宙人ぶりについていけず、読みづらいなあと思った。でも、ぶっ飛んだ言動に慣れてくると(?)笑えてしょうがない。いや、コメディーなんだけど、この手の宇宙人ネタはラブストーリーを期待してる読者にとっては多少取っ付きづらいというか、ネタとして難しいところがあるのかも?
笑えるようになってくると、今度はこの受がわりと鋭くて、常識的なことに気付く。確かに変人なんだけど、傍若無人なわけじゃなくて、気を遣うポイントがおかしいっていうか。つまり憎めないタイプ。ただし直接的な被害がなければ(笑)
一番の被害者であるカウンセラーの悲劇には笑った~。
パワーのある変人っぷりが楽しい。
で、攻の担当編集者のほうはヤクザみたいな強面で、わりと不器用。作家の作品に惚れ込んで全力でサポートしているという、好感の持てるタイプでもある。
だから受が好きになるのも分かるし、受に告白された後の振り回されっぷりも楽しい。それに攻が変人の受を好きになっていく過程も無理がない。確かに可愛いし、確かにいい人っていうのが、ちょっとずつ見えてくる。

テンポよく話が進んでいくうちに、だんだん受の深い悩みが分かってくる。変人ゆえに好きな人から拒絶される、というもの。確かに感覚が変わってる人っていうのは、付き合いづらくはあるだろう。でも、誰だって「自分を好きなら性格変えろ」なんて言われたくないし、そう簡単に変えられない。とくにこの受の場合は、「ここが駄目」って言えるようなものじゃない。思考と感覚を丸ごと変えないと駄目かもしれない……。
このあたりにまで読むと、変人の受がいい奴に思えてくる。愛すべき変人という感じ? だから、ずっと人格全否定されて生きてきたという過去が辛く切ない。
しかも、それを「仕方のないこと」と諦めて、それなりに人生を楽しんでしまっているところが、哀しくも、強くていいなあと。
そこで攻を好きなった理由が分かる。どうやら攻の「それで先生がのびのびと創作できるのでしたら、どうか私の前ではありのままの先生でいてください」という発言がきっかけだったらしい。つまり、「ありのままで」と人格を肯定されたことが理由。
この台詞と好きになった理由は、実は冒頭の場面にしっかり書いてある。ただ、受の事情を知らないうちに読んだので、軽くさらっと流してしまって覚えていなかった。まあ私が忘れっぽいだけかもしれないけど。
そんな深い理由だったのか、と驚いたし、上手いなあと思った。さらっと書いてあるのに、改めて読み返してみると深い意味を含んでいるという台詞やシーンがある作品って、そう多くはない。いいな~と思った。

変人設定だけに、かなり癖はある。
でも、基本の視点(地の文)はきちんと普通の感覚で書かれているから共感しやすいし、読みづらくはない。文章も読みやすいと思う。ネット上でいくつか、「文章が読みづらい」という批評を見かけたが、私は読みやすいと思った。
甘さや切なさも程よく入っていて、なにより話にパワーがある。
次作も楽しみ。

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