尾上与一 蒼竜社 2012/10

この作者さん読むのは、これが2冊目。
時代物は大正~昭和初期(戦前)しか受け付けないわっていう趣味なんで、戦時下の話は重苦しくてキツイな~と思いながら読み始めた。
当然自分で買ったものではなく、借り物。

ネタバレ
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読み応えがあって面白かった。間違いなく力作で佳作。
当時のことをとってもよく調べて、時代を理解しようと努力なさってるのが伝わってくる。
戦時中なのにきれいすぎる感もあるけど、登場人物のものの考え方とか台詞に時代を感じて、上手いと思った。
憧れの人の身代わりに特攻に志願するという特殊な状況下の人間の心情も丁寧に、共感できるように描いていた。幼い頃からの初恋のために命を懸けるという設定に無理を感じさせない(現代人でも納得できる)だけでも、すごいことだと思う。

希(主人公)は資紀(攻)の冷たい仕打ちに耐える、いわゆる「健気受」なんだけど、だんだん気持ちが冷めていきそうになり、「慕う気持ちが薄れる前に、早く特攻に行きたい」と思うようになる。真面目な軍人である資紀が家の事情で特攻に行けないのは耐え難いことだろうと理解を示しながらも、理不尽は理不尽と感じるところが、感情移入しやすかった。
…ただ感情が鈍いだけなんじゃないの?というような耐え方ではなく、冷静に考えた上で耐えることを選んで、自分の生き方を貫こうとするところがよかった。

資紀の凶行には、ここまでやる必要がある?と思った。特攻を静かに受け入れている主人公にとっては、特攻に行かせてやることのほうが幸せじゃないのか、と思ったから。
ただ、資紀の気持ちが分かってくると、「ああ、そういう時代なんだな」と納得できる。彼の取った方法が正しいかどうかは分からないし、当時の倫理観ではまずいだろうという気もするが、生を選択することを否定できない。
というか、特攻で死んだほうが幸せだろうと思ってしまった自分に少し驚いた…。

見えなかったインクの星が浮かび上がってくるとか、金平糖の話とか、素敵なエピソードも多い。
新多や光子さんもいいキャラだったな~。
この作品に感動して「特別な1冊」として何度も読み返す人も少なくないだろうと思う。
こういう骨太というか、ストーリーがしっかりしたBLが増えるといいな~。
素晴らしい作品だと思ったし、「ちょっと設定は重たいけど、試してみて」って人に薦めたくなった。


蛇足。
ここまで絶賛しておいてなんだけど、私個人としては感動までいかなかった。
泣ける話なんだろうけど、とくに泣けなかったし、ラストは少し引っ張っているように感じた。なんていうか、凄い設定とエピソードのわりには淡々としていて、いまいち心に響かなかったというか。
ここらへんが傑作とは書かずに、佳作と誉めた理由かもしれない。
これは個人的な感覚の問題で、どーでもいいといえばどーでもいいんだけど、あくまで自分の感想として書いているブログなので、感じたことも記録しておこうかと。

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