宮部みゆき 新潮社 2014/10

6冊、読了。
いや~、読み応えがあった。
私はこの作品には、この長さが必要だったと思うけど、全6冊という長編だから、当然ついていけない読者も多かったようで。
(長い先品はみんなそうだけど)
古本屋に置いてある冊数の違いで「読者のついていけなかった度」がよく分かった(笑)
ただ、ついていけなかったのは、長さだけが原因じゃないだろうなとも思う。


がっつりネタバレ
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大満足!
あ~、面白かった。

たぶん、純粋にミステリとして読むと、冗長に感じると思う。それほど大きな謎があるわけでもない。
「ある中学生が転落死した。ほとんどの人が自殺だと思っていたところに、彼は同級生に殺された、という告発状が届く」というのが事件の概要。
まあ、事件としては地味だし、告発状が嘘だということは最初から明かされているわけで、そもそも事件性が薄いというか。
しかも、冒頭のシーンだけで「事件の真相」が薄っすら分かってしまった読者もいたはず。
(私は分かったけど、「結末に驚いた」という感想も多い気がするから、分かるかどうかは人によるのかな)
冒頭の伏線は軽いミスリードで、いわゆる引っかけではなかった。
つまり、「謎解き」ばかりを楽しみに読むと、長い!と感じるんじゃないかと。

まず、第I部で事件に関わる人たちの事情や心情がじっくり語られる。
ここでガッツリと土台を作っているからこそ、後の法廷劇が面白くなるんだけど、中学生たちの悩みにじっくり付き合わされるから、読んでて少し息苦しいようなところもあった。
事件の関係者を「いい人」「悪い人」に分類しないで、「みんな、いい面も悪い面も持ち合わせている」という描き方なのがいい。
後半では、「真相はだいたい見えている」と思ってたのに、小さな謎が次々と出てきて、話が複雑になっていった。

第II部は、「学校内裁判」をすることが決まって、検事側、弁護側の双方+関係者たちが裁判の準備を進めるところまで。
証言を集める、と言っても、証言してくれるように説得する必要があったり、事実関係を捜査していく難しさは、実際の裁判と同じだと思う。
判事、検事、弁護人の3人はスーパー中学生といってもいいような、すごく頭のいい子供たちとして描かれているけど、あくまで「子供たち」。捜査権があるわけでもないし、できないことも多い。開廷までの期日も短い。
それでも、力を合わせて取り組む姿が爽やかだし、有力な証言や証拠を見つけ出した時は痛快だし。ちらちらと垣間見える神原弁護人の謎部分も興味深い。
陪審員や同級生、被告人、先生や刑事や保護者といった大人たちも含めて、登場人物はすごい数だけど、それぞれの「役割」ではなく、人柄や心情が丁寧に語られるところがいい。
「スーパー中学生」の活躍も楽しいけど、とくに活躍しない登場人物たちの語りこそが面白かった。
いきなり法廷の場面から始まったら、たぶんこれほど楽しめなかった。この準備期間があるからこそ、事件の背景がはっきり見えて、法廷でのやり取りに興味が尽きなかったんだと思う。
多くのミステリでは、刑事や探偵の助手といった話の進行役の視点で固定されてしまうから、関係者の心情にはそこまで深く踏み込めないことが多い。でも、この作品では視点が固定されていないから、もう一歩踏み込んだところまで語られていて深みがある。

第III部はいよいよ「学校内裁判」の本番。
検事も弁護人も最初から攻めるなあ。裁判冒頭から「空想です」って断言、いいなあ。
判事、検事、弁護人の三人はもちろん有能ですごいけど、事件に真面目に向き合う陪審員たちや廷吏も立派だと思う。
本当に見事な法廷劇で。
圧倒的に不利なところで戦っている検事側にちょっと肩入れして読んでしまったけど、弁護側の論証も鮮やかで面白い。
証言自体は、学校内裁判といっても現実に死者が出ている事件を扱っているから、結構痛ましい。なかでも、嘘だと分かっている三宅樹里の証言は痛々しく感じた。
聞かされる陪審員たちもそれぞれ、しんどそうだったし。
ここまで読んできて詳しく事件について知っているのに、ちっとも退屈しないどころか、新鮮に驚くことも多かった。佐々木刑事が裁判の序盤で帰ってしまう傍聴人に対して持った「先が気にならないのかしら」という疑問には深く頷いてしまった。ほんと、先が気になって仕方なかった。
大体の着地点は最初から分かっているというのに、先の展開が気になるのが凄い。最後まで「次は誰がどう出るんだろう」という興味が尽きなかった。
被告人のアリバイがほぼ成立した後で、新証言が出てくるとか、ちゃんと退屈させないように作られていて、ぐいぐい読めた。
被告に対する弁護側の尋問は圧巻。これが検事からの尋問ではないところがポイント。これがないと救われない人も多かった。
最終日の三人目の証人に対する検事側からの尋問は、最初からこの仕掛けに気づいていたというのに、裁判の中で誰も逃げずに辛い真相を明らかにしていく過程が見事で引き込まれた。
生徒たちの成長とか、それを見守る大人たちの気持ちも含めて、事件の全容を見渡せる特等席が名探偵ではなく読者のために用意されているのがよかった。
最後に下された陪審員たちの評決もお見事!

裁判後の彼らがどうなったか、もっと知りたかったけど、詳しく語られないところがよかったのかもしれない。
「あの裁判が終わってから僕ら――友達になりました」という台詞だけで十分という気もする。
とてもいいものを読んだ。

文庫版にはおまけの中編が入っている。続編って書かれてるけど、番外編という感じかな。20年後の藤野涼子も頼もしかった。

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